
胸部外科は心筋梗塞、心臓弁膜症、大動脈解離等を扱う心臓・血管外科、増加の一途を辿る肺がん等を扱う呼吸器外科、食道がん等を扱う食道外科からなります。もちろん心肺移植、内視鏡を使った手術も含まれます。外科の分野でも専門性が高く、外科医なら誰でもできる、という訳ではありません。例えば全国に心臓血管外科専門医は1600人、呼吸器外科専門医は1100人しかいません。それだけに高い技術を要求されますが、一方では外科医として大変やりがいがあるのです。では特殊な人しかできないのでしょうか?いいえ、熱い情熱を持っているあなたならできるのです。簡単とはいいません、しかし苦労の末に到達した道はそれだけ喜びも大きいのです。日本胸部外科学会はそういう人たちを応援します。男女は問いません。百聞は一見に如かず、私達の世界に飛び込んでみてください。先ずは先輩からのエールに注目!
日本胸部外科学会 研究・教育委員会 胸部外科若手育成ワーキンググループ委員長
秋田大学医学部附属病院 呼吸器外科
教授 小川 純一

“Memento Mori”と心臓外科医
心臓外科医は常に死に想いを馳せ、生に憧れている集団です。Memento Moriとは、“死を忘れるな”と邦訳されることが多い警句ですが、我々の現場は、常にこの様な緊張感に溢れています。19世紀末、Theodor Billroth 先生が“心臓手術を試みる者は同僚から軽蔑されよう”と警告されて、100年余経過した現在、彼の予想とは裏腹に心臓手術は長足の進歩を遂げてきました。しかしながら、心臓外科の臨床現場は他の外科領域に比べて “生と死のせめぎ合い”が直接目に見える所です。手術戦略の適否、手技の精確度がこれほど直截に手術成績に反映する領域は他にありません。自らの依って立つところの患者の最大幸福のために、心臓外科医は絶え間ない精神、頭脳、技術のtraining を要求されます。厳しい労働、内科医の進出、社会からの圧力などの逆風下、心臓外科領域に参入しようとする若人が及び腰になるのは理解できますが、我々は患者さんにとって最後の砦です。逃げ隠れするわけにはゆきません。
君たちは最近、胸の内、心ときめくことがありましたか?急性大動脈解離や急性心筋梗塞で瀕死の患者が外科手術により生還した時の感動は当事者でないと分かち合えない至福です。一方元気で入院してきた乳幼児が冷たい骸となってお見送りしなければならないときの慚愧は耐え難いものです。また自分が教育した後進たちが大きく成長してゆくのを目の当たりにするのも幸福な瞬間です。我々の現場は厳しくはありますが、多くの感動に満ち溢れ、皆明るく頑張っています。いやしくも国税の援助を受けて医師免許を獲得したからには真の“国手”たり得るべく、一度、“生と死が待った無しの鎬を削る”環境、心臓外科に淫してみませんか?

"呼吸器外科分野のやりがい"
肺は命にかかわるバイタルオルガンにもかかわらず、普段は大きな顔をしていません。ところがここと言うところで真価を発揮します。そんな臓器を扱う呼吸器外科に密かな、そして大きな魅力を感じます。対象疾患である肺癌はこれから20年増加し続けます。唯一の根治治療が手術です。呼吸器外科医にしか出来ないのです。治療成績を上げるためにやらなければならない基礎的研究が山ほどあります。摘出した腫瘍の解析は外科医の仕事です。移植、再生と研究は未来に続きます。

私は、人の命に直接かかわる医者になりたいと思って救急医療と迷いながら心臓血管外科を選んだ。一人前になるのに厳しいトレーニングが必要だが、得られるものも大きい。典型的なチーム医療であり、達成感も大きく責任も大変大きいが、患者さんからの絶大な信頼は医者冥利に尽きる。しかも何といっても心臓という臓器は面白い。生理学として理解しやすいうえに、完全復活もあり得る。人工心臓、心臓移植そして再生医療だ。是非、諸君の熱いHeartをHeart surgeryに賭けて、天職として一生その醍醐味を味わってほしい。

私の専門は食道外科です。外科医になってすぐに日本外科学会に入会しましたが、同時に胸部外科学会にも入会しましたので、入会して30年になります。米国の胸部外科学会も心臓血管外科、呼吸器外科、食道外科が3本柱であり、日本胸部外科学会への食道外科医の参加は必要だと考えています。食道癌の手術は消化器外科手術の中で最難関であり、手術点数も一番評価されています。食道は咀嚼した食べ物を胃へと運ぶ短い管状臓器でありながら、気管、肺、心臓などの重要臓器に囲まれ、リンパ網が複雑に取り巻き、表在癌でも広範なリンパ節に転移を起こします。食道外科専門医制度もできたばかりです。ブラックジャックを目指す若い医師たち、最難関の手術に挑戦してみませんか。

心臓血管外科はやりがいのある仕事です
想像してみてください。心臓血管外科医になったあなたの目の前にショック状態の大動脈破裂の患者さんがいます。それを救えるのはあなたしかいないのです。心筋梗塞のあとの乳頭筋断裂。瀕死の患者さんを救うのはあなたなのです。最後の砦をまもるという責任は重い。でもこれほどやりがいのある仕事もありません。
心臓血管外科は究極のチーム医療です
あなたの完璧な手術を支えるのは、内科医、麻酔科医、人工心肺技士、手術室の看護師、そしてICUと病棟のスタッフ。この歯車のどの一つを欠いても患者さんを救えません。それだけに患者さんを救った喜びはチームみんなの喜びです。患者さんの笑顔とスタッフの笑顔に囲まれるときがあなたは至福のひとときです。
心臓血管外科、Excitingな分野です
開心術、人工心臓、心臓移植、つねに先端を牽引してきた心臓血管外科医。今も大動脈ステント、ロボット手術、心筋再生医療、と新しい分野は尽きません。あなたが歴史をかえる1ページ、そのための扉は目の前に開かれています。心臓血管外科のExcitementを一緒に共有しましょう。

呼吸器外科医の最大の仕事は肺癌の根治切除です。定型手術の他に、合併切除を伴う拡大手術、早期癌に対する縮小手術、内視鏡手術、またロボット手術など、呼吸器外科の日常臨床は高速に変貌しています。移植医療も増加の一途を辿っています。この様な状況の下、我々は指導者として、次世代を担う呼吸器外科医を真剣に育成しようとしています。きちんとした指導のもとに一定の経験を積めば、必ず一流の技術を体得することができます。最先端を走る快感は何物にも代えがたいものがあり、特に専門性の高い呼吸器外科ではそれが実感できるでしょう。天職として取り組む価値のある分野であることを学会員の全員が保証いたします。

"心臓外科の面白さ"
30年前、医学部を卒業して医療に従事してみると、学生の頃に想像していたことと実際は随分異なることがわかりました。2年間の外科研修でさまざまな外科系診療科を回り、それぞれに面白いと感じました。心臓血管外科は血行の再建により、患者さんが劇的に回復し、起座呼吸でベッド上で仰向けにさえ寝られなかった患者さんが、元気に歩いて退院してゆくこと、手術の成果に涙を流して喜んでいることに感激し、そのやりがいの大きさに心を動かされ、生涯の仕事にすることに決心しました。当時は人工心肺装置の性能も劣り、手術の危険率はきわめて高く、先輩達からはこのように言われました。「心臓外科をやっていてやりがいを感じ、よかったと思うと同じ位、悲しい思いもして、選ばなければ良かったと思うこともある。それでもやりたいなら、覚悟を決めてやりなさい。」と。今は手術成績も向上していますが、昔に比べてはるかに重症な症例を手がけるようになっています。しかしながら、退院した患者さんに外来で会った時に、みなさんは医師という仕事の本当のやりがいを感じることでしょう。スポーツでも山登りでも、困難が多いほど達成した時の喜びは大きいと思いませんか?胸部外科学会では、若い外科医が良い環境で仕事ができるようにさまざまな努力をしています。来れ、熱い心をもつ若者達!

みなさん、こんにちは。私は食道外科を専門にしています。まずみなさんにはやり甲斐があり、自分の好きな分野に進まれることが第一です。この条件を満たせば人生を有意義に楽しく過ごすことができます。私は食道外科に出会ったおかげで楽しく過ごしています。本邦の消化器外科は欧米先進諸国と比較して非常に高いレベルにあります。特に食道癌手術は他の追従を許さない地位を確保しています。食道外科の遂行には消化器外科、胸部外科、耳鼻科に及ぶ技術とさらに化学放射線治療などの知識が必要で、決してたやすい道ではありません。しかし好きで、やり甲斐があるとこの道を歩むのが楽しくなります。私は卒後30年を過ぎますが、胸腔鏡手術をはじめとする食道癌手術はいまだに自分の技術が日々進歩するのを感じています。この道は先が見えないから、益々ゴールへの道程をもっと楽しむことができそうでわくわくします。より高い山、より遠い道にチャレンジしたい若い先生と共に世界最高の外科を行いたいのです。

"ネットワークを作って情報を得よう"
外科を選択する医師は減っていますが、外科を選択する女性医師は増えています。2010年2月に私は米国の「女性外科医のためのキャリアシンポジウム」に参加しました。多数の女性医学生・レジデントが女性外科医に混じって参加していました。10月の米国女性外科医会秋の大会では20名の医学生・レジデントが研究をポスターにまとめて発表し、優秀演題には賞が贈られました。成功した女性外科医達と医学生・レジデントが一緒にテーブルにつく、ネットワーク作りもありました。今後、胸部外科医を目指す女性医師のためにこのような機会をたくさん作ってあげたいと思います。
私たちの熱いメッセージは届きましたか?
以下はみなさんのためにこれから学会が目指す行動計画です。
Q&A みなさんの質問に答えます。
これから胸部外科医を目指そうとするみなさんの将来像、疑問、不安、ライフスタイルに関する質問等、何でも結構です。心臓血管外科、呼吸器外科、食道外科医のプロがわかりやすくお答えします(みなさんの質問にお答えします!を参照して下さい)。
日本胸部外科学会では医学生・研修医の発表機会を設けます
全国5ブロック(北海道、東北、関東、関西、九州)で開催される日本胸部外科学会地方会にみなさんが経験した症例報告、ミニ研究などを発表できる機会を設けます。優秀な発表を表彰します。みなさんの自信に繋がると同時に、将来にきっと役立ちます。
サマースクールを開催します
胸部外科に興味のある全国の医学生や研修医が一同に会するサマースクールを2011年から開催いたします。みなさんの参加、お待ちしています!