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2008年学術調査結果

はじめに

日本胸部外科学会は、1986年から20年以上にわたり、学会会員の施設を対象に、心臓外科(胸部大動脈手術を含む)、呼吸器外科、食道外科の年間手術件数を調査してきました。当初は術式別の手術件数のみでしたが、後半は死亡件数の調査も行っており、集計結果を機関誌の日本胸部外科学会雑誌に発表してきました。
最近では3領域ともに94~98%の高い回収率であり、本邦での胸部外科領域の手術をほぼ網羅していると考えています。調査結果は海外へ情報を発信するため英文となっており、図書館などを介せば入手は可能ですが、専門領域の手術で疾患(病型)、手術術式など詳細に分類していますので、一般の方々には難解な点があろうかと思われます。
そこで、社会に向けて情報公開を進めるため、学会ホームページに代表的疾患の手術成績を日本語で理解しやすい形にして掲載することにしました。
心臓外科(胸部大動脈手術を含む)、呼吸器外科、食道外科の3領域に分けて掲載しています。
それぞれの領域の手術件数の年次推移、疾患別の変化をグラフで示しました。
3領域の術式別の集計は表にしましたが、死亡については手術後30日以内の死亡と病院死亡(術後入院中の死亡すべてを含む)にわけて記載しています。

心臓外科

心臓外科領域での手術数は年々増加し、調査を開始した1980年代後半の総数2万例から、2002年では5万例を越え、2008年には約59000例となりました。これは全体の約1/3を占める虚血性心疾患に対する手術(主に冠動脈バイパス術)が増加してきたことが大きく影響しています。なお、2002年以降、冠動脈バイパス術はカテーテル治療(ステント治療)の波及で、漸減傾向にありましたが、2008年度に再び増加に転じました。

弁膜症手術については、リウマチ性弁膜症は減少しましたが、高齢化に伴う変性性の大動脈弁狭窄や僧帽弁閉鎖不全が増加しており、2008年には約17000例の手術が施行されました。また、年々増加しているのは胸部大動脈手術で、調査開始当初の1200例から11000例までに増加しています。先天性心疾患に対する手術は、出生率にも影響していますが、約8000~9600件で推移しています。

先天性心疾患、弁膜症、冠動脈疾患(虚血性心疾患)、胸部大動脈疾患、その他と分類しています。

心臓外科 2008年学術調査結果PDF

先天性

先天性領域は、日本の未来に影を落とす少子化、出生率低下に曝されながらも、新生児例と単心室群の手術件数増加により学術調査開始以来最高の総手術件数9595件で微増となった。1997年、2003年、2008年で実数[CPB(+)/(-)の総数]を提示する。
新生児期手術件数[830⇒1249⇒1514:1997年に比べて1.82倍]。
単心室群(SV,HLHS,TAの総数)手術件数[638⇒977⇒1109:1997年に比べて1.74倍]。
先天性領域でもカテーテル治療[PDA, ASDなど]の躍進は目を見張るものがあることは言うまでもないが、2008年時点では単心室群を中心とした新生児期重症例の救命率向上と同群の継続治療件数の増加が勝った構図であった。

先天性 2008年学術調査結果PDF

弁膜症

弁膜症手術件数は年々増加の傾向にあり、2008年では年間約17,000件の手術が行われた。高齢者の大動脈弁狭窄症や、僧帽弁変性疾患の増加。また、手術適応も薬物治療の限界が手術ではなく、術後のQOLを考慮して早期に手術が行われるようになった点などが手術件数増加に影響していると考えられる。単弁疾患では大動脈弁が7050例と多く大動脈弁置換術が一般に行われている。使用された人工弁は生体弁が61%で機械弁が38%であり、年々生体弁の比率が増加している。これは、手術を受ける患者さんの高齢化、新しい人工弁選択に関するガイドラインの影響と思われる。僧帽弁疾患は4.406例で弁形成が59%、機械弁25%、生体弁16%であった。二弁疾患、三弁疾患はそれぞれ4135件、800件である。この中で三尖弁疾患との組み合わせ例の大半は、僧帽弁疾患の病態の進行に伴う二次的な三尖弁閉鎖不全である。したがって主に形成術(弁輪縫縮術)が行われている。  
全体の在院死亡は3.3%であった。この中で再手術例の在院死亡率は7.1%と高い。人工弁感染性心内膜炎などによる状態の悪い患者さんに対する再手術例が全体の成績を不良にしていると考えられる。生体弁の劣化、変性に対する再手術を待機的に行う場合はこれより良好な成績であると思われるが、今回の調査では詳細は不明である。

弁膜症 2008年学術調査結果PDF

冠動脈について

2008年度に全国で施行された心大血管手術のうち、虚血性心疾患の手術数は19,237例で2007年度より2.8%増加しており、2003年度からの減少傾向に歯止めがかかってきたものか注目される。
虚血性心疾患手術の中で最も標準的な冠血行再建術(CABG)の単独手術では初回・待機的CABGが14,943例で初回・緊急CABGが2,508例であった。
心臓血管外科手術全体のレベルを推測する上で、最も参考になるのが、初回・待機手術であるが、単独CABG全体でみると、手術後30日以内の死亡率はわずか0.7%で、これは欧米の3~4%に比べて有意に低率であり、本邦の手術水準の高さを示すものである。また、この手術成績はカテ-テルインターベンションによる冠血行再建術と比較しても有意差はなく、命に対する浸襲度という点からはCABGは低侵襲を標榜してきたPCIに並んだとも言える。CABGの中での30日死亡率は人工心肺・心停止法で0.9%、人工心肺・心拍動法で1.3%、オフポンプ法で0.6%となっており、オフポンプ法が良好な成績を示している。このことは必ずしもオフポンプ法が有利ということを示しているものではなく、オフポンプ法が適用できない困難例が人工心肺法で行われている可能性も考慮しなければならない。
一方、同じ初回CABGでも緊急手術の成績は不良で30日死亡率は5.7%に達し、この数字は数年来改善していない。予定CABGの成績は年々向上していることを考えると、緊急手術の危険性は病状の深刻さが主因と結論され、早期の手術介入が成績向上のカギと考えられる。

冠動脈について 2008年学術調査結果PDF

大血管・胸部大動脈手術

胸部大動脈(上行大動脈~胸腹部大動脈)手術は年々増加し、2007年と比較すると9.1%増加し、2008年は10998例に至りました。その内訳は非解離性の大動脈瘤 5985例、大動脈解離が 5013例で、ステントグラフトを使用した経カテーテル治療は 1406例に行われました。全体の病院死亡は 9.4%で、2007年と同等でした。個々の病院死亡率は急性A型大動脈解離が3283例で13.0%,破裂性大動脈瘤は 28.1%、非解離性大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術は非破裂例で 2.7%、破裂例で 18.3%でした。部位別の病院死亡率は弓部大動脈手術は 11.4%、胸腹部大動脈手術 14.1%でありました。

大血管・胸部大動脈手術 2008年学術調査結果PDF

呼吸器外科

2008年の呼吸器外科手術は初めて6万件を越え、61315件が報告されました。実は昨年は55832とその前年の59220と較べてわずかに減少したのですが、これは特に肺癌の調査項目が複雑になり記入が困難だと感じられた施設が多かったことによると思われます。全呼吸器外科手術の45.5%を肺癌が占め、肺癌の発生が人口の高齢化に伴い引き続き増加すると考えられるため、呼吸器外科手術も増加傾向はしばらく続くと考えられます。疾患別ではやはり気胸の手術が20.8%と肺癌に続く多さでした。
肺癌の中では腺癌が67.7%と最も多く、たばこによる肺癌がへるとともに、EGFR遺伝子変異をもっているものなど、たばこ以外の原因の肺癌が増える傾向が見られます。
肺癌の切除術式ではやはり肺葉切除術が74%と引き続き標準手術として用いられていますが2008年はそれらのうちちょうど半数の10327例がVATS(VATS補助)により行われています。2006年手術ではこの割合は41%でした。VATSの定義が不明確なので内容は様々であると推測されますが、低侵襲手術を求める傾向はさらに顕著になっています。
肺癌手術の30日死亡は0.4%肺葉切除では0.4%、全摘で2.8%と大変良好な手術成績を保っています。正しい手術適応、安全な手術手技、優れた術後管理があってこそ、この世界に誇る成績が得られていると思います。しかし近年のCT発見の微少肺癌手術が増加していることも術後成績の良さに貢献することは明らかです。術前診断の困難なこれら微少肺癌は患者生命に影響しないものもあるため(したがって手術は過剰治療となっている)今後の検討課題です。

縦隔腫瘍4142例中41%が胸腺腫でした。これらのうち22.2%がVATSで行われました。重症筋無力症に対する胸腺摘出術が577例(うち胸腺腫合併272例)あるのですが、おそらく重症筋無力症の悪化によると思われる手術死亡が2例あり、良性疾患であるこれらの患者の死亡はゼロにする必要があります。術後管理が十分であれば可能なはずです。
肺移植は脳死14例、生体11例で手術死亡はゼロです。ことしは臓器移植法の改正により増加が期待されます。
VATSは全体で37733例でした。これは全体の61.5%にあたりますが、前述のようにVATSの定義、分類を明確にする必要があります。

呼吸器外科 2008年学術調査結果PDF

食道

高齢者人口の増加に伴い、この領域の手術は今後増加することが見込まれます。また、医療技術の進歩により、内視鏡や胸腔鏡を用いたいわゆる体腔内手術が普及し、患者さんへの手術侵襲の軽減が期待されます。
食道癌治療としては、早期の癌に対して内視鏡的切除が広く行われるようになり、2008年には1700例を越す症例が登録されています。また、化学放射線療法の進歩により非手術的治療、集学的治療が行われる様になりましたが、患者さんの数が最も多い進行度II、IIIの患者さんに対しては依然手術療法が中心であります。食道癌に対する胸腔鏡手術は本邦では1995年より開始され、次第に増加し、2008年には年間1000例を越える様になりました。また、胃食道逆流症、アカラシアなどの食道良性疾患に対しても内視鏡手術が広く行われる様になりました。

食道 2008年学術調査結果PDF