HOME >  一般のみなさまへ  >  食道の病気

食道の病気

  1. 食道(しょくどう、Esophagus)について
  2. 食道がんについて

1.食道(しょくどう、Esophagus)について

食道は消化管の一部で、食物が口、のど(咽頭)から胃に送り込まれるときに通過する管状の臓器で、成人で25~30 cm前後の長さがあります。頸部で、咽頭は、声帯を通って気管へと続く喉頭とその後ろ側の食道に別れ、そこが食道の始まりになります。食道は胸部では、中央にある心臓や大動脈を含む部分(これを縦隔といいます)にあります。食道は、縦隔のなかでも後ろの方にある後縦隔という部分にあります。頸部から胸部上部では気管の後方を通り、周囲を大動脈弓が回り、胸部中下部では背骨の前方、下行大動脈の右前方で、心臓の後ろを通り、左右には肺があります。横隔膜(食道裂孔)を突き抜けて腹部に至り、そこで胃の入口(噴門といいます)とつながります。したがって、重要な臓器に囲まれており、手術するにはアプローチしにくい臓器といえましょう(図1)。


図1 食道と周囲臓器との関係

出典:日本食道学会(2007)『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第10版』金原出版

食道の壁は、内腔側から粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、外膜からできています(図2)。癌は粘膜上皮の細胞が癌化することにより発生します。
食道は、他の消化管と違って食物の消化を行う機能は持っていません。食物を咽喉から胃へ送り込む役割を果たしているに過ぎません。食道の筋肉が動いて蠕動を起こすことによって食物を運ぶわけですが、重力もその手助けをします。


図2 食道癌の深達度分類

2.食道がんについて

1)概要

食道がんは食道の悪性腫瘍の代表的な病気です。日本における食道がんの90%以上は扁平上皮から発生する扁平上皮がんで、胸部中部から下部食道に多く発生します。欧米ではこの30年ほどで、扁平上皮がんの頻度が減少し、バレット上皮から発生する腺がんが食道がんの多くを占めております。日本でも今後腺がんが増加する可能性がありますが、まだ疫学的にみてもはっきりと増加しているとはいえない状況です。
わが国における食道がんによる死亡数は、2012年には総数11,592人(男性9,724人、女性1,868人)であり、人口10万人あたりの死亡率は9.4人(男性15.9人、女性2.9人)となっている1)。死亡数は、全悪性新生物の死亡数の3.2%であり。総数では9位、男性に限ると第6位となっている。死亡率の年次推移は、女性はほぼ横ばい、男性はわずかに増加している。

2)疫学と原因

好発年齢は、50~70歳代で、男女比は6:1と男性に多いがんです。食道扁平上皮がんの原因と考えられているのは飲酒と喫煙です。最近、生まれ持ったアルコールの代謝能力が発がんに深く関わっていることがわかってきました。これはアルデヒド・デヒドロゲナーゼIIという酵素の遺伝子が関わっており、この酵素の遺伝子がヘテロ(対にならずに片方のみ存在)の場合に食道がんになりやすいといわれています。この酵素は、アルコールから生成されたアセトアルデヒドを分解する酵素で、これが全く欠損している場合はアルコールに極めて弱い下戸になり、対になっている場合はアルコールに強いことになります。ではヘテロはいうと、すぐ顔に出てしまうのですが、練習次第でかなり飲めるようになるわけです。したがって、すぐ顔に出るがよく飲む人が、食道がんになりやすいハイリスクな人といえるのです。

3)症状

早期がんではほとんど症状がなく、ときにものを飲みこむ時、すなわち嚥下時の痛み、違和感、焼けるような感じがある程度ですが、進行してくると食物のつかえや食物が飲み込めないなどの症状が出現します。

4)診断

食道がんを、症状のない早期のうちに発見するには内視鏡検査が必須です。内視鏡は近年めざましい進歩を遂げています。肉眼で見るよりも鮮明に生体を観察することができるだけでなく、特殊な光を用いた観察や病変部を拡大した観察ができるようになりました。例えば、狭帯域フィルター内視鏡(NBI)では食道粘膜表面の構造や血管をより強調して見ることができます。そのため、通常内視鏡では見えにくい食道がんでも、NBIでは茶色に変化した領域として、比較的くっきりと見えます(図3)。


図3 NBI

食道がんの確定診断は、内視鏡時の生検によって行います。すなわち、内視鏡検査の際に病変を見出し、組織をつまんで顕微鏡でがん組織を確認することでおこないます。また、がんの広がりや転移の状況など進行度を調べるための検査として、食道造影検査、X線CT検査、腹部エコー検査、超音波内視鏡検査、PET-CT検査などがあります。これらの検査で、病変の大きさ、他臓器への浸潤の有無、リンパ節転移の有無や肝転移・肺転移など遠隔転移の有無を確認することができます。
がんが食道壁のどこまで浸潤しているか(壁深達度T)(図2)、リンパ節転移の部位(N)、他臓器への遠隔転移の有無(M)によって、その進行度(ステージ)を決めます。(表1、図4)


表1 進行度の評価

出典:日本食道学会(2007)『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第10版』金原出版


図4 進行度

出典:日本食道学会(2007)『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第10版』金原出版

5)治療

食道がんの治療は、Stage 0の早期がんに対しては内視鏡治療、そして進行がんに対しては手術、放射線治療、抗がん剤治療すなわち化学療法を組み合わせて治療することが原則です。推奨される治療法はステージごとにガイドラインに記載されています(図5)。


図5 食道癌治療のアルゴリズム

出典:日本食道学会(2012)『食道癌診断・治療ガイドライン 2012年4月版 第3版』金原出版

  1. 内視鏡治療:がんを治すために行われる内視鏡治療は、上皮から発生した腫瘍の深さが、上皮内もしくは粘膜固有層にとどまる場合が適応になります。これらのがんはリンパ節転移がほとんどないことがわかっており、内視鏡で食道のがんがきれいに取り切れれば完治します。
    粘膜切除Endoscopic Mucosal Resection(EMR)と粘膜下層切開剥離Endoscopic Submucosal Dissection (ESD)の2法が行われます。EMRでは内視鏡先端に爪付き透明キャップを装着します。その後がんの下層に液体を注入しがん部を挙上させ、キャップ内に吸引し金属の輪(スネア)で締めて電気を流しながら切除します。EMRは簡便な方法ですが、切除できるがんの大きさに制限があります。一方、ESDでは専用のナイフを用いてがん周囲の粘膜を全周切開し、その後がんの部分をナイフで食道の壁から剥離し切除します。この方法によって大きな食道がんを一塊で切除し、再発の少ない治療が可能になりました(図6、7)。


    図6 内視鏡治療(EMRとESD)


    図7 実際のESD施行例

    このほかにアルゴンレーザー焼灼、YAGレーザー照射なども行われることがありますが、EMRの遺残などに追加して行ったり、狭窄部の拡張の際に行ったりすることが多く、欧米ではがんが発生しそうなバレット上皮を予防的に焼灼することにも用いられます。いずれにしても、がんの根本的な治癒を目指す治療ではないと考えられます
  2. 外科手術:食道がんは比較的早い段階から広範囲のリンパ節に転移を起こすことがわかっています(図8)。CTやPETで転移なしと判定されていても実際には小さなリンパ節転移が広がっていることがあります。したがって胸部食道がんを治すために行われる(根治的な)標準手術は、頸部の食道を除いた胸腹部の食道を切除すること(食道亜全摘)、頸部・胸部(縦隔)・腹部の転移しそうなリンパ節を取ってしまうこと(3領域リンパ節郭清)、そして取ってしまった食道の部分を胃や大腸、もしくは小腸を用いて再建することからなる大きな手術です(図9)。


    図8 食道癌が転移しやすいリンパ節

    出典:日本食道学会(2007)『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第10版』金原出版


    図9 食道癌の手術

    出典:日本食道学会(2007)『臨床・病理 食道癌取扱い規約 第10版』金原出版

    再建は、通常、胃を用いることがほとんどで、胃を管状に作って(胃管作成)、頸部まで挙上してつなげます(頸部食道・胃管吻合)。胃が使えない場合には、大腸、まれに小腸を用います。再建の際の挙上経路はもともと食道があった縦隔を通す場合(後縦隔経路)、前胸部の骨(胸骨)の後ろにトンネルを作って通す場合(胸骨後経路)、そして前胸部の皮下にトンネルを作って通す場合(胸壁前経路)の3つがあります。これらの再建経路には、それぞれ長所・短所がありますが、従来、比較的安全な胸骨後経路による再建が多く行われていたのですが、近年はより生理的で術後も食物を飲み込みやすい後縦隔経路が行われるようになってきました。後縦隔経路は、飲み込みやすい分、胃液の逆流を起こしやすいことと、頻度は低いのですが、うまくつなぎ目がつかなかった(縫合不全)時に膿胸や縦隔炎を起こし、重篤になる危険性がやや高くなります。
  3. 化学放射線療法:食道がんに対する治療としては、放射線治療単独よりも化学療法すなわち抗がん剤と併用して行う化学放射線療法が効果的であることが証明されており、非外科治療で根治を目指す治療の一つとなります。
    根治的な化学放射線療法の対象となる症例は、外科手術の適応となる進行度の症例に加えて、隣接する気管や大動脈に浸潤があり手術ができない症例なども対象となります。治療成績については、Stage Iのような比較的進行度の早い症例では外科手術と同等性が期待されているものの、Stage II,IIIのようなやや進行した症例では、術前化学療法+外科手術の治療成績が化学放射線療法の成績を上回ると推定されています。
    治療に関連する早期副作用としては、悪心・嘔吐、骨髄抑制・食道炎・口内炎・下痢・便秘・放射線性肺臓炎などがあります。また、晩期副作用としては放射線性心外膜炎、放射線性胸膜炎、胸水・心嚢液貯留などがあります。
    また、化学放射線療法後にがんが遺残した場合や再発した症例に対する外科手術(サルベージ手術)を行うことがありますが、周術期死亡が約8%と極めて高い危険性が報告されています。
  4. 化学療法:抗がん剤を用いた治療のことを化学療法といいます。食道がんの化学療法は主にStage IVbのようながんの転移が全身に広がっており外科手術の適応がない症例に対して、がんの進行を抑制する目的で行われます。また、前もって抗がん剤でがんを小さくしてから手術を行う場合にもおこなわれます。使用する抗がん剤として 5-FUとシスプラチンの2種類を併用するFP療法が標準的です。腎機能障害がある場合やご高齢の場合など全身状態に合わせて、シスプラチンのかわりにネ ダプラチンや、ドセタキセル単剤を使用することもあります。これらに加え、近年、ドセタキセル docetaxel (DTX)/シスプラチンcisplatin (CDDP)/5-FU 療法(DCF療法)やウイークリー・パクリタキセル weekly paclitaxel (PTX) (週1回3週投与1週休薬)なども次第に用いられるようになってきています。副作用として吐き気、嘔吐、食欲不振、口内炎、下痢、脱毛、白血球減少、腎機能障害等があります。
  5. 姑息的治療:手術切除不能な場合に、姑息的に食道瘻造設術、バイパス術、食道ステント留置などを行います。  食道瘻は、頸部食道を剥離露出、そこからチューブを挿入、胃まで留置固定します。近年、専用のキットを用いて頸部皮膚から食道を穿刺し、チューブを挿入留置する方法も行われています〔経皮的食道胃管挿入術(PTEG)〕。  食道ステント術は、X線透視下で食道用ステントを食道がんの狭窄部に挿入し、狭窄部を拡張するものです。このステント術の普及により、バイパス術はあまり行われなくなりました。