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代表的な疾患

目次

  1. 呼吸器外科とは
  2. 肺・縦隔のしくみと働き
  3. 統計
  4. 代表的な疾患
  5. 手術成績
  6. 参考資料

肺がん

 呼吸をする時、空気が通る道筋のことを気道(きどう)といいますが、その中で気管支から肺胞に至る部分を肺と呼び、ここに発生するがんのすべてを肺がんと呼びます。肺がんの原因として、現在のところはっきりしているのは喫煙です。肺がんは、日本におけるがん死亡の1位を占めています。肺がんの治療法は原則的には病期(病気の進行具合を示す)という進行度により決定されます。それに加え、がんの特徴、年齢、これまでにかかった病気、合併症、臓器の機能や一般的な健康状態に基づいて、慎重に治療の方法を選択します。肺がんの治療法には、外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法、免疫療法、痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療(緩和治療)などがあります。手術は主としてI期とII期に対して行われます。

図5 我が国の肺癌に関する統計資料

図6 近年増加している小型の肺癌
小型の肺癌
胸部レントゲン写真
  胸部HRCT

 標準的な術式は、がんの存在する肺葉切除とリンパ節郭清(根こそぎ摘出すること)です。I、II期の肺癌では、最近は切開する傷を小さくし、胸腔鏡(きょうくうきょう)というビデオカメラで得られた内部の映像をモニター画面でみて、自動縫合などのいろいろな器具を用いて肺切除することも広まっています。

図7 肺癌に対する胸腔鏡下肺葉切除
 術者の間にある胸腔鏡で胸の中の様子をモニターに映し出し、2人の術者が協力して肺切除のための血管を露出している。術野が拡大されているので、剥離すべき薄い膜を正確につかむことができる。直視の手術では術者と介助と任務分担が明確だが、この手術ではあたかも術者が2人、手が4つになったかのようになり、手術時間が短縮する。

 いっぽう、胸壁に癌がおよび肩や胸壁に痛みが出る肺尖部胸壁浸潤肺癌のようなIII期の進行肺がんでは抗癌剤と放射線治療を行った後に、肋骨と肋骨の間を大きく切開する標準開胸を行い、術野を自分の直接見て、肺と胸壁をともに一塊に切除します。

図8 肺尖部胸壁浸潤肺癌
a)肺癌の発生する部位
(左肺のてっぺん)
  b)切除術式のシェーマ
(右肺のてっぺんの肺癌の場合)

 

 肺癌と連続する胸壁をひと固まりとして切除する、肺だけではないのでこのような手術を拡大手術といいます。

 

気胸

 肺とその入れ物である胸郭(胸壁―横隔膜)の間の空間(数百分の1mmの厚み)を胸腔といいます。厚みは胸腔にある数ccの水は肺が膨らんだり縮んだりするときの潤滑油の役割を果たし、肺は胸郭に向かい合ってするする動いています。気胸とは肺から空気がもれて、胸腔にたまっている状態をいいます。この時、もれ出た空気に押されて肺が小さくなります。

図9 痩せ型体型の若い男性に発症した右特発性自然気胸

 気胸の問題点は、再発することです。手術は、原因であるブラ(肺表面の風船様状態)を切除することです。外科治療としては多くの場合胸腔鏡下手術が選択されます。

図10 胸腔鏡手術の実際(がん研有明病院 呼吸器外科 文 敏景 先生 提供)
1.モニターを見ながらの手術
 
2.胸部に数カ所の小さな創をつけて手術機械を挿入する

 

 

 

転移性肺腫瘍

 肺は悪性腫瘍が転移しやすい臓器のひとつであり、各臓器がんから血流、リンパ流を介して肺に転移してきたものを転移性肺腫瘍(転移性肺がん)と呼びます。転移性肺腫瘍に対しての治療は原発巣(がんの発生臓器)の特徴により各種の治療方法が選択されますが、外科的切除も治療方法のひとつに含まれます。ただし、肺切除のもたらす効果を十分考慮する必要があります。転移性肺腫瘍の場合は、肺病巣の部分を切除するというものがほとんどです。2010年の日本胸部外科学会における学術調査結果から主な原発巣について下記に示します。

主な原発巣 患者数(人)
大腸 3,352
腎臓 543
頭頚部 436
乳腺 397
351
子宮 300
肝臓/膵臓 289
軟部組織 270
121

 

 

胸腺腫(きょうせんしゅ)

 胸腺とは、胸骨の裏側、心臓の上前部(前縦隔(ぜんじゅうかく)といいます)にあり、免疫に関連するTリンパ球と呼ばれる白血球を成熟させる臓器です。成人になると退化して脂肪組織となり、その働きを終えます。胸腺腫は、成人になって退化した胸腺の細胞から発生する腫瘍です。腫瘍細胞が増殖するスピードは比較的遅く、胸腺をおおっている膜(被膜(ひまく)といいます)の外に広がることはまれですが、進行すると周囲の肺、心臓、大血管や胸腔(きょうくう)に広がっていくこともあります。胸腺腫の治療法として最も多く行われるのが手術です。胸腺と、その周囲の腫瘍が広がっていると疑われる部位を完全に取り切ることを目的として行われます。通常、胸のまん中の皮膚を切開します(胸骨正中切開(きょうこつせいちゅうせっかい)といいます)。また、小さいサイズの腫瘍に対しては、通常の開胸手術(5~10cm程度の手術創)や胸腔鏡手術も行われます。

図11 胸腺腫の発生部位

 

胸膜中皮腫(きょうまくちゅうひしゅ)

 肺や心臓などの胸部の臓器や、胃腸・肝臓などの腹部の臓器は、それぞれ、胸膜、心膜、腹膜と呼ばれる膜に包まれ、体の内面もこれらの膜でおおわれています。この薄い膜には、中皮(ちゅうひ)細胞が並んでいます。中皮細胞から発生するがんを中皮腫といいます。その発生する場所によって、胸膜中皮腫、心膜中皮腫、腹膜中皮腫などがあります。なお、中皮腫といえば悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を意味します。胸膜中皮腫では、片側の肺のすべて、外側の胸膜(壁側胸膜)、横隔膜などをまとめて取り除く大きな手術を行う場合があります(胸膜肺全摘(きょうまくはいぜんてき)術といいます)。また、外側の胸膜を切除し、腫瘍で厚くなった内側の胸膜をはぎ取る手術もあり、この場合は、肺は残ります。手術の前に抗がん剤治療を行うこともあり、また、手術後の再発を予防するために放射線治療を行うこともあります。

図12 中皮腫の発生部位
胸腔にカメラを入れて観察。中央の丘のように見える横隔膜や写真上側の胸壁の表面を覆う胸膜にへばりついているように見えるのが胸膜中皮腫。抗癌剤治療後に胸膜肺全摘術、引き続き、右胸部に放射線治療が行われました。

膿胸

 胸腔内に膿性(のうせい)の液体がたまったもので、全身性の敗血症、外傷あるいは肺炎などを原因とします。日頃、多く出会う細菌性膿胸の場合、発症から数週間の場合を急性膿胸、数ヶ月経ち肺の表面に何層もの膜が作られて肺が本来の形に膨れることができなくなった場合を慢性膿胸といいます。細菌性膿胸治療の原則は急性期に徹底的に治療を行うことにより、慢性膿胸への移行を阻止することです。治療法としては、抗菌化学療法、胸腔ドレナージがありますが、フィブリン(血液を凝固させる作用をもつたんぱく質。出血に際し、血漿(けっしょう)中のフィブリノゲンにトロンビンが作用してできる不溶性の線維状のもの)による被膜が形成されてしまった場合には、胸腔鏡で胸腔の様子を確認して、たまったフィブリンと汚染組織を掻き出して十分な量の生理食塩水で洗浄する手術を行います。発見や紹介が遅くなって、以上の処置や手術では肺が完全に膨張しない慢性化した膿胸の場合は膿胸腔を消滅させるために開窓術、肺剥皮術、胸膜肺切除術、胸郭成形術など、それぞれの状態に応じての術式を選択して治療します。

早期膿胸郭清術

1970年代:小開胸下
(mini-thoracotomy)

1990年代:胸腔鏡下
(video-assisted)
図13 左細菌性膿胸
左の肺が胸腔にたまった細菌で汚染されてドロドロした胸水(膿胸)で押しつぶされている