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胸部大動脈瘤

キーワード

大動脈瘤 動脈硬化 大動脈解離 解離性大動脈瘤 仮性大動脈瘤 大動脈破裂 マルファン(Marfan)症候群 Stanford分類 DeBakey分類 人工血管置換術 血管内治療(ステントグラフト内挿術) 脳保護 脊髄保護 低侵襲治療 Landing zone バイパス手術 ハイブリッド手術 ステントグラフト実施施設 エンドリーク マイグレーション

  1. 大動脈とは
  2. 大動脈瘤の発生および分類
  3. 胸部大動脈瘤(真性大動脈瘤)と手術適応
  4. 大動脈解離と手術適応
  5. 胸部大動脈瘤の手術方法
  6. 胸部大動脈瘤の手術成績
  7. Key words
  8. 関連リンク集

1.大動脈とは

大動脈は人体で最も太い血管であり、内側から内膜、中膜、外膜という3層で構成された計2mm程度の厚みをもった、丈夫で弾力のある血管です。心臓の左心室から送り出された血液は大動脈弁を通過し、ここから大動脈となります。はじめに大動脈は心筋に血液を送る冠動脈を分枝します(大動脈基部)。その後縦隔内を上方に走行します(上行大動脈)。次に胸部上方で脊椎の左横方向に向かいつつ頭部、上肢に血液を送る重要な3本の血管を分枝します(大動脈弓部)。その後脊椎の左側を下方に走行します(下行大動脈)。その後横隔膜を貫き脊椎の前側を下方に走行しつつ腹部の重要な血管を分枝します(腹部大動脈)。その後骨盤のやや上で左右に分かれるところまでが大動脈と呼ばれる部分です(図1)。大動脈に生じる疾患の主なものは大動脈がこぶ状に膨らむ大動脈瘤や大動脈の壁が裂ける大動脈解離があげられます。


図1 大動脈の名称

2.大動脈瘤の発生および分類

大動脈には常に高い圧力(血圧)がかかっており、動脈硬化などにより脆くなった血管は徐々に膨らみ「こぶ」が生じることがあります。これが大動脈瘤です。いったん「こぶ」が生じると、さらに「こぶ」の部分の血管がもろくなり、どんどん拡大し破裂に至ります。動脈瘤の多くは無症状で経過し、胸部レントゲン写真などで偶然に見つけられる場合がほとんどです。また、胸背部の痛みなどの症状が出現する場合は、破裂の前兆となる場合があり危険なサインです。大動脈瘤を「こぶ」のでき方で分類すると、前述の3層の構造を保ったまま拡大する真性大動脈瘤、後で述べる大動脈解離が原因となる解離性大動脈瘤、外傷、手術後などに発生する仮性大動脈瘤に分類されます(図2)。


図2 大動脈瘤の分類

原因による分類

  • 真性大動脈瘤
  • 大動脈解離(解離性大動脈瘤)
  • 仮性大動脈瘤

また、大動脈瘤はその発生する部位により呼び方が異なっております。たとえば、上行大動脈にできたものは上行大動脈瘤、腹部大動脈にできたものは腹部大動脈瘤といいます。横隔膜を挟んで下行大動脈から腹部大動脈にまたがる大動脈瘤は胸腹部大動脈瘤と呼ばれます。

発生部位による分類

  • 大動脈弁輪拡張症、バルサルバ洞動脈瘤:大動脈基部の拡大がみられるもの
  • 上行大動脈瘤:上行大動脈の拡大がみられるもの
  • 弓部大動脈瘤:弓部大動脈の拡大がみられるもの
  • 下行大動脈瘤:下行大動脈の拡大がみられるもの
  • 胸腹部大動脈瘤:下行大動脈から腹部大動脈にかけての拡大がみられるもの
  • 腹部大動脈瘤:腹部大動脈の拡大がみられるもの、多くは腎動脈下

3.胸部大動脈瘤(真性大動脈瘤)と手術適応

3-1 胸部大動脈瘤(真性大動脈瘤)

ここでは真性大動脈瘤に関して説明します。大動脈瘤とは大動脈壁にこぶができて拡大してくる疾患ですが、このこぶが大動脈壁の3層の構造(内膜、中膜、外膜)を保ったまま拡大するのが真性大動脈瘤です。大動脈の拡大が正常径の約1.5倍に拡大した場合に大動脈瘤と呼ぶことが一般的です。真性大動脈瘤の拡大の形態は主に2種類あげられ、紡錘状動脈瘤は大動脈が回転楕円体のように全周性に拡大したものであり、嚢状動脈瘤は餅が膨らむように一方向に突出する形で膨らんだ形態のものです。原因としては大動脈壁のアテローム性動脈硬化、変性、炎症、感染などがあげられます。このような動脈瘤の多くは長い年月をかけて拡大、成長し、ほぼ無症状で経過し、胸部レントゲン写真などで偶然に見つけられる場合がほとんどです。ところが、胸背部の痛みなどの症状が出現する場合は、破裂の前兆となる場合があり非常に危険なサインです。

3-2 胸部大動脈瘤の診断と手術適応

大動脈瘤のうち胸部大動脈(上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈)に発生したものを胸部大動脈瘤と呼びます。胸部大動脈瘤が疑われた場合は、まず心臓血管外科を受診し、CTなどの詳細な画像診断を行う必要があります。いったん大動脈瘤が発生した場合は、自然に治癒することがなく、いずれ破裂するものであるため手術による治療が必要です。大動脈瘤が破裂した場合は出血性ショックから死亡する可能性があり、また、緊急手術を行っても救命できる確率は高いとは言えません。したがって破裂する前に手術を行う必要があります。CTにより胸部大動脈瘤の瘤径(大きさ)を測定し、大きさにより手術を早めに行うか定期的にCTでフォローアップするかを決定します。胸部大動脈瘤の患者さんは冠動脈疾患や脳血管病変、高血圧や糖尿病、腎機能障害、呼吸機能障害など多くの合併症を併発していることがあります。これらを総合的に判断して手術を行うべきかどうか判断されます。
2011年に改訂された大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドラインでは一般的に6cm以上の胸部大動脈瘤は手術による治療が推奨されておりますが、急速に拡大してきた場合、嚢状大動脈瘤、マルファン症候群などの場合は6cm以下でも治療の対象となります。尚、手術適応とならない場合にも、高血圧の合併がある場合には適切な血圧管理により、できる限り大動脈瘤の拡大を予防することが重要です。

4.大動脈解離と手術適応

4-1 急性大動脈解離

上述したように大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3層で成り立っております。大動脈解離は内膜から中膜にかけて亀裂が生じ、中膜のレベルで大動脈が長軸方向に裂ける疾患です。大動脈がもとの血管腔である真腔と新たにできる偽腔の二腔に分かれてしまいます。この疾患は突然に発生するものであり、通常は急な胸背部痛を主訴とします。また、症例によっては意識障害(脳血管の虚血症状)、腹痛(腹部血管の虚血症状)、下肢の痛みや麻痺(下肢の虚血症状)、対麻痺(脊髄の虚血症状)など重篤な合併症状を伴う事があります。突然死の原因にもなる疾患です。

4-2 急性大動脈解離の分類と治療法

急性大動脈解離の分類にはStanford分類が用いられます。上行大動脈に解離が及んだ場合はStanford A型、上行大動脈に解離が及んでない場合はStanford B型と分類されます。A型の場合は心タンポナーデ(上行大動脈から浸み出した血液や血性の浸出液により心臓が圧迫される状態)、大動脈弁閉鎖不全(大動脈基部の拡大により生じる)、急性心筋梗塞(大動脈基部の解離により冠動脈が閉塞する)などを生じることが多くあります。緊急手術を行わない場合は48時間で50%の患者さんが死亡するという非常に重篤な疾患です。緊急手術は上行大動脈を人工血管に置換する手術が一般的ですが、解離の進展範囲により大動脈基部置換術(大動脈弁の置換も含む)や弓部大動脈置換術を行う必要があります。ここでも脳分離体外循環を用いた術式が標準的です。B型の場合は上記合併症を生じることがないため基本的には保存的加療(安静と降圧療法)が原則ですが、腹部の虚血症状などを合併した場合は緊急手術が必要となる場合があり、条件によりステントグラフト治療が有効な場合もあります。緊急手術とならない場合も、解離により発生した偽腔は大動脈壁が脆弱になっているため急性期には破裂の危険があります。厳密な安静療法と血圧管理が重要となります。
また、大動脈解離は偽腔の状態により治療法が異なる場合があります。偽腔が開存したままの偽腔開存型大動脈解離に対して、大動脈解離が生じても早期に偽腔が血栓により閉塞する場合があり、これを偽腔閉塞型大動脈解離といいます。偽腔閉塞型の場合はStanfordA型であっても保存的治療法の対象となる場合があります。それでも上行大動脈径が大きい場合や拡大傾向が見られる場合、血栓化した偽腔壁が厚い場合などでは手術を選択します。

4-3 大動脈解離の慢性期

発生後2週間を経過すると慢性期となります。B型解離とA型解離の術後で弓部~下行大動脈以下の解離が残存した場合がこれにあたります。急激な破裂の危険性は時間経過とともに減少しますが、その後もゼロにはなりません。経過順調で約1ヶ月後に退院となった場合でも、その後の定期的なCTにより、大動脈の拡大がみられた場合には手術による治療が必要となります。慢性期に解離した大動脈が拡大してきた場合、解離性大動脈瘤とよぶ場合があります。手術適応は上述した胸部大動脈瘤のガイドラインと同様で、一般的には6cmを目安に手術適応を考慮します。手術は下行大動脈から胸腹部大動脈にかけて拡大した大動脈を人工血管に置換する手術が選択されます。

5.胸部大動脈瘤の手術方法

真性大動脈瘤も大動脈解離も手術方法は大きく分けて2種類です。手術方法は大動脈瘤の発生部位等によって異なっており、拡大した大動脈を人工血管に置換する手術(人工血管置換術)と、血管内治療(ステントグラフト内挿術)です。人工血管置換術を行う際には人工心肺装置が必須となり、これは大動脈の血流を遮断している際に循環の維持を行う必要があるためです。心臓に近い大動脈基部―上行大動脈―弓部大動脈瘤の手術の際には、人工心肺を使用した上で、心停止の状態で手術を行う必要があります。また、弓部大動脈瘤の手術の際には脳血管への血流を維持する必要があるため、通常よりも多くの回路を必要とする脳分離体外循環といった方法が取られます。手術術式、体外循環法の改良により近年手術成績が向上してきておりますが、手術の侵襲が大きく、脳梗塞などの合併症も無視できません。人工血管は一般的にダクロンという線維で作られたものを使用しますが、感染合併例などではホモグラフトを用いる場合があります。一方、ステントグラフト内挿術はカテーテル類を用いて足の付け根の血管(大腿動脈)から治療するものであり、人工血管置換術と比較して低侵襲であることが特徴で、近年急速に発展してきました。この方法は適応できる範囲が限られており、胸部大動脈領域では下行大動脈瘤の治療に用いることが一般的です。ただし分枝血管に対するバイパス手術などを用いることで、弓部大動脈瘤などに対する治療も行われており、今後も新たな治療法の開発が期待できる領域です。

5-1 大動脈基部置換術

大動脈弁輪拡張症など大動脈の基部から上行大動脈の拡大がみられた場合や、急性大動脈解離が大動脈弁輪近くまで及び冠動脈の再建が必要になった場合などに取られる術式で、大動脈の基部から上行大動脈にかけて人工血管に置換する手術です。大動脈弁閉鎖不全症などを伴っている場合もあり、大動脈弁に対する処置が必要であることと、冠動脈を再建する必要があることが特徴です。胸骨正中切開にて開胸し、人工心肺を装着し心停止下に行います。大動脈弁は人工弁に置換する場合と、大動脈弁を温存する場合があります。これは大動脈弁疾患の合併、弁の性状などにより選択します。冠動脈の再建法は冠動脈をカフ状に切り抜いて人工血管に縫合する場合(Carrelパッチ法)や、小口径の人工血管を用いて再建する場合(Pieler法)などがあります。

5-2 上行大動脈置換術

真性大動脈瘤による上行大動脈の拡大が生じた場合や急性大動脈解離の場合に用いられる術式です。急性大動脈解離では、上行大動脈が解離することにより心嚢内に血性心嚢液や血腫が生じ心タンポナーデとなったり、大動脈基部に解離が及び大動脈弁閉鎖不全症や冠動脈の閉塞による心筋虚血の原因となる場合があります。これら解離に伴う合併症は上行大動脈を人工血管に置換することで回避することが出来ます。上行大動脈に生じた中膜の亀裂部(エントリー)を切除し、その部位を人工血管に置換することで、弓部大動脈以下の解離腔が閉鎖することを期待します。

5-3 弓部大動脈置換術

大動脈弓部に真性の大動脈瘤が生じた場合、急性大動脈解離で上行大動脈置換のみの処置では不十分と判断された場合などに行われます。この手術は大動脈弓部から脳や上肢に分枝する重要な3分枝(腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈)の再建が必須となります。胸骨正中切開にて開胸し、人工心肺装置を装着しますが、脳保護の目的で、通常の人工心肺回路とは別に上記3分枝に対して別個に潅流を行う脳分離体外循環法を用いた手術を行います。また、下行大動脈側と人工血管を吻合する際には、低体温(22度から25度)とし下半身の循環を停止させて吻合を行っております(open distal法)。人工血管は4分枝付き人工血管を用いることが一般的であり人工血管の側枝はそれぞれ上記3分枝と吻合されます(図3)。

A 弓部大動脈瘤   B 弓部置換術後
 
図3 弓部置換術

5-4 下行大動脈置換術

下行大動脈に真性大動脈瘤が生じた場合や大動脈解離の慢性期に下行大動脈の拡大が生じた場合などに行います。また、外傷などにより近位下行大動脈に仮性動脈瘤が生じた場合もこの術式となります。この手術は胸骨正中切開ではなく、左開胸にて行います。近年、この領域ではステントグラフト内挿術(Thoracic Endovascular Aortic Repair;以下TEVAR)による治療が主流となりつつありますが、TEVARが不可能な場合などは人工血管置換術を行います。ここで人工心肺は腹部大動脈以下の潅流を行う目的で使用し、通常は心停止を行う必要はありませんが、近位下行大動脈から置換が必要なケースで、大動脈壁の性状が不良である、解離しているなどの理由により大動脈弓部の遮断が出来ない場合は低体温として脳分離体外循環を併用し心停止も必要な場合があります(open proximal法)。

5-5 胸腹部大動脈置換術

胸腹部大動脈瘤とは胸部下行大動脈から腹部大動脈にかけて大動脈瘤が生じたものです。広範囲の大動脈を置換する必要があります。大動脈瘤の範囲によりCrawford分類によって分類されます。肩甲骨の下縁から恥骨上縁にいたるまでの長い皮膚切開を行い、左開胸から後腹膜腔まで大きく開け、横隔膜も切開します。置換範囲には腹腔動脈、上腸間膜動脈、両側腎動脈などが含まれる場合があり、この場合はこれらを全て再建します。人工心肺装置の使用法は置換範囲などにより様々であり、腹部分枝(腹腔動脈、上腸間膜動脈)への潅流などの役割も担います。この手術の重大な合併症に対麻痺があげられます。脊髄は数多くある肋間動脈の一部から起始するAdamkiewicz動脈(以下AKA)から潅流されており、胸腹部大動脈瘤の置換範囲にはこの血管が含まれることが多く、術中の脊髄虚血により脊髄梗塞が生じる危険があるためです。対麻痺となった場合は梗塞部位以下の下半身の麻痺などが生じ、歩行不能となるなど重度の障害となります。AKAとなる肋間動脈の同定と再建、脊髄ドレナージ法、硬膜外冷却法など各施設で様々な脊髄保護法がとられております(図4)。

A 胸腹部大動脈瘤
Crawford II型
  B 胸腹部置換術後
 
図4 胸腹部置換術

5-6 ステントグラフト治療

ステントグラフトとは人工血管にステントといわれる自己拡張型の金属を取り付けたものです。このステントグラフトを収納したカテーテルを大腿動脈等の末梢血管より挿入し、大動脈瘤の存在する部位まで進めた後に大動脈瘤をステントグラフトがカバーするように放出します。放出されたステントグラフトは自己拡張力を持つ金属の力と血圧によって血管内壁に圧着されることで大動脈瘤内への血流を遮断し、瘤の破裂を予防します。ステントグラフト治療では通常の手術と比較して大きな皮膚切開や胸部大動脈瘤の人工血管置換術で必要とされる 循環補助手段を必要としないため、体にかかる負担が非常に少なくなることが最大の長所となります。本項では主に胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療について説明させていただきます。最近は胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療はTEVAR (Thoracic endovascular aortic repair)(図5)と呼ばれるようになってきています。


図5 ステントグラフト治療

この大動脈瘤に対する低侵襲治療であるステントグラフト治療は1991年にアルゼンチンの 血管外科医Parodiによって腹部大動脈瘤に対して最初に行われました。その優れた早期 成績をふまえて1992年に米国のスタンフォード大学で胸部大動脈瘤に対するステントグラフト治療(TEVAR)が開始されました。本邦ではTEVARは1993年に加藤ら1)によって最初に行われました。また東京医大は1995年にTEVARを開始し、2005年に米国で改良型のTAGがFDAの承認を得て発売されるまで世界一の症例数を誇っていました。しかしこの当時のステントグラフトは各病院の手作りで、主に自己拡張型Zステントをダクロン製の人工血管で被覆したものであり、その適応は限られていました。胸部大動脈瘤対するステントグラフトの開発は技術的に難しいこともありなかなか進みませんでしたが、1998年に米国でTAGの臨床試験が開始され、その後の慎重な検討の結果2005年3月にFDAの認可を受けることが出来ました。本邦においてはTAGが2008年7月に厚労省の認可を受けており、2012年12月現在で4種類のデバイス(TAG、TALENT、TX2、Valiant)が使用可能となっています。これらの企業製ステントグラフトは以前のhomemadeステントグラフトと比較して様々な構造的な工夫が施されており、優れた中期成績が報告されています。10年以上の長期成績の報告はまだあまりありませんが、2008年に発表された報告によると胸部下行大動脈瘤に対するTAGを用いた治療は5年目では 開胸手術より優れていたと結論付けられています2)。

日本胸部外科学会の2010年度の学術調査では胸部大動脈瘤に対するTEVARの入院死亡率は以下の通りであり、緊急症例で入院死亡率が高い傾向が見られますが、初期治療成績は概ね良好と思われます。
TEVARの入院死亡率 (2010年、日本胸部外科学会学術調査)
非解離性(非破裂性):23/900(2.6%)、非解離性(破裂性):20/110(18.2%)
急性解離性(Stanford A):0/4(0%)、急性解離性(Stanford B):3/28(10.7%)
慢性解離性(Stanford A):3/47(6.4%)、慢性解離性(Stanford B):4/132(3.0%)

これらの結果をふまえて本邦においても動脈瘤治療におけるTEVARの適応拡大が進んでいます。ステントグラフト治療を行うためには動脈瘤の前後にLanding zone (ステントグラフトを固定するための正常な大動脈壁の部分)が最低1.5~2cm必要であり、全ての動脈瘤がステントグラフト治療の適応となるわけではありませんが、胸部下行大動脈瘤の患者さんには積極的に行われるようになってきています。また2010年のガイドライン改定で、合併症を有する急性B型大動脈解離の患者さんもステントグラフト治療の良い適応とされました。

A   B
 
図6 ハイブリッド治療の例

その他 ステントグラフト治療を積極的に行っている施設では、弓部分枝、腹部分枝に非解剖学的バイパス術を行った後にステントグラフトを内挿する治療(Hybrid治療)(図6)や開窓型ステントグラフトによる治療(図7)も行われており、今後長期成績の評価やデバイスの改良によってTEVARの適応が更に拡大する可能性は高いと考えられます。


図7 開窓型ステントグラフトによる治療

このステントグラフト治療ですが、本邦においては2007年6月に日本脈管学会、日本循環器学会、日本心臓血管外科学会、日本血管外科学会、日本血管内治療学会など関連11学会にてステントグラフト実施基準管理委員会が設立され、厳しい実施基準が定められました。現在ステントグラフト治療はこの委員会の実施基準をクリアした施設で、ステントグラフト実施医、指導医の資格を持った医師のみが行う事ができます。実施施設の検索はステントグラフト実施基準管理委員会のホームページ(http://www.stentgraft.jp/ )で行う事ができます。このホームページ内に一般の方向けのページもありますので、ぜひご参照下さい。

またステントグラフト治療を受けた患者さんは動脈瘤内への血液の漏れ(エンドリーク)やステントグラフトのずれ(マイグレーション)、ステントグラフト治療に起因する有害事象等が起こっていないかを確認するために、術後10年間、定期的なCT検査を受けることがステントグラフト管理委員会から推奨されています。実施施設の担当医がステントグラフト管理委員会にそのデータを報告し、管理委員会で定期的にその結果を解析してホームページで公開していく予定と なっています。

参考文献:

1)Kato M, Kuratani T. The history and current status of thoracic endovascular aneurysm repair in Japan. J Cardiovasc Surg. 2008; 49: 503-510.
2)Makaroun MS, et al. Five-year results of endovascular treatment with the Gore TAG device compared with open repair of thoracic aortic aneurysms. J Vasc Surg. 2008; 47: 912-918.

6.胸部大動脈瘤の手術成績

以下に、2010年の胸部外科学会の学術調査結果による日本全国の手術成績を示します。

6-1 大動脈解離の手術成績

    N 30-day mortality Hospital mortality
急性 A型 3687 340(9.2) 410(11.1)
  B型 160 26(16.3) 30(18.8)
慢性 A型 881 38(4.3) 55(6.2)
  B型 745 36(4.8) 49(6.6)

6-2 非大動脈解離の手術成績

    N 30-day mortality Hospital mortality
開胸手術 非破裂性 4899 164(3.4) 240(4.9)
  破裂性 519 109(21.0) 142(27.4)
TEVAR 非破裂性 1617 26(1.6) 40(2.5)
  破裂性 206 30(14.6) 36(17.5)
合計 非破裂性 6516 190(2.9) 280(4.3)
  破裂性 725 139(19.2) 178(24.6)

7.Key words

大動脈各部の名称:大動脈基部、上行大動脈、弓部大動脈、下行大動脈、腹部大動脈
重要分枝の名称:左冠動脈、右冠動脈、腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈、肋間動脈、腹腔動脈、上腸間膜動脈、右腎動脈、左腎動脈、下腸間膜動脈、右総腸骨動脈、左総腸骨動脈
大動脈瘤の名称:胸部大動脈瘤:大動脈弁輪拡張症、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、腹部大動脈瘤
大動脈瘤分類の名称:真性大動脈瘤、紡錘状動脈瘤、嚢状動脈瘤、仮性大動脈瘤、外傷性大動脈瘤、破裂性大動脈瘤、非破裂性大動脈瘤
大動脈解離関連名称:大動脈解離、急性大動脈解離、慢性大動脈解離、解離性大動脈瘤、Stanford分類、Stanford A型、Stanford B型、DeBakey分類 偽腔開存型大動脈解離、偽腔閉塞型大動脈解離
手術術式名称:大動脈基部置換術、Bentall手術、弁温存大動脈基部置換術、上行大動脈置換術、弓部大動脈置換術、下行大動脈置換術、胸腹部大動脈置換術、腹部大動脈置換術、ステントグラフト内挿術、TEVAR(Thoracic Endovascular Aortic Repair)
その他:Crawford分類、対麻痺、脊髄ドレナージ法、Adamkiewicz動脈(AKA)

8.関連リンク集

日本胸部外科学会:http://www.jpats.org
日本心臓血管外科学会:http://jscvs.umin.ac.jp
日本血管外科学会:http://www.jsvs.org
日本外科学会:http://www.jssoc.or.jp
日本循環器学会:http://www.j-circ.or.jp
日本脈管学会:http://www.jc-angiology.org/japanese/
日本循環器学会ガイドライン:http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm
大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_takamoto_h.pdf