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重症心不全治療(心臓移植、補助人工心臓)

キーワード

心不全 拡張型心筋症 肥大型心筋症 虚血性心筋症 心臓移植 補助人工心臓 ドナー レシピエント 免疫抑制剤 拒絶反応 心臓移植実施施設 心臓移植適応委員会

  1. 重症心不全とは?
  2. 心臓移植について
  3. 補助人工心臓

1.重症心不全とは?

心臓は血液を全身に送り出すポンプの働きをしています。心臓のポンプ機能が低下することにより、全身に血液が十分送ることができない、全身からの血液が心臓に十分に返ってこられないため、全身に体液が溜まってしまう状態(うっ血)を心不全といいます。心不全の原因としては、虚血性心疾患、弁膜症、先天性心疾患などが挙げられます。心不全の治療としては、まず薬物療法、非薬物療法(ペースメーカー植込み)などの内科的治療や外科的治療(冠動脈バイパス術、弁形成術など)があります。しかしこれらの治療で効果が得られないような重症心不全に対しては心臓移植や補助人工心臓装着が残された治療法になります。

2.心臓移植について

重症心不全で内科的治療や上記の外科的治療によっても、改善が見られない場合に、脳死のドナー(提供者)から頂いた心臓を移植する手術が心臓移植です。日本では1997年10月に「臓器移植に関する法律」が施行され、年間10人弱の重症心不全患者に対して心臓移植が行われました。2010年7月の改正臓器移植法施行後、徐々に移植数も増加(2013年37件、2014年37件)し、日本においても心臓移植が重症心不全の治療として定着しつつあります。

心不全だからと言ってすべての心不全患者が心臓移植を受けられるわけではありません。まず以下の事項を考慮する必要があります。

  1. 移植以外に救命できる有効な治療手段がないか?
  2. 移植医療を行わなかった場合、余命がどれくらいあるか?
  3. 移植手術後の定期的検査とそれに基づく免疫抑制療法に十分に得られるか?
  4. レシピエント自身が移植の必要性を認識し、また家族の協力が期待できるか?

適応疾患として、拡張型心筋症、拡張相の肥大型心筋症、虚血性心筋疾患、及びその他の日本循環器学会、日本小児循環器学会の心臓移植適応検討会で承認する心臓疾患が挙げられます。

心臓移植の適応条件としては、

  1. 不治の末期的状態にあり、以下のいずれかの条件を満たしている場合です。
    1. 長期間またはくり返し入院治療を必要とする心不全
    2. β遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA3度ないし4度から改善しない心不全
    3. 現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例
  2. 年齢は60歳未満が望ましい
  3. 本人および家族の心臓移植に対する十分な理解と協力が得られることです。

逆に以下の状態の心不全患者は心臓移植の適応除外になってしまいます。

心臓移植の適応とならない場合(除外条件)

絶対的除外条件

肝臓、腎臓の不可逆的機能障害
活動性感染症(サイトメガロウイルス感染症を含む)
肺高血圧症(肺血管抵抗が血管拡張薬を使用しても6 wood単位以上)
薬物依存症(アルコール性心筋疾患を含む)
悪性腫瘍
HIV(Human Immunodeficiency Virus)抗体陽性

相対的除外条件

腎機能障害、肝機能障害
活動性消化性潰瘍
インスリン依存性糖尿病
精神神経症(自分の病気、病態に対する不安を取り除く努力をしても、何ら改善がみられない場合に除外条件となることがある)
肺梗塞症の既往、肺血管閉塞病変
膠原病などの全身性疾患

※参考資料;心臓移植希望者(レシピエント)選択基準(http://www.jsht.jp/uploads/Candidate.pdf

心臓移植手術

全身麻酔で、手術が開始行われます。まず、前胸部の皮膚を喉仏の少し下からみぞおちまで切開し、さらに胸骨を縦に切開します。次に人工心肺装置を使って全身の循環を維持するようにして、レシピエントの心臓を、左右の心房を残して切りとります。そしてドナーの心臓を縫い合わせていきます。
ドナー心臓は、移植手術が終わるとレシピエントの全身の循環を維持しなければなりません。このドナー心臓は元来正常に働いていた心臓ですが、レシピエントに移植された直後は一時的に心臓の働きが低下し心不全状態になることがあります。これは、ドナーから心臓を摘出して搬送し、移植終了まで心臓に血液の流れない状態(虚血状態)が数時間必要となるためです。この場合、強心薬などを数日間使用することによって、心臓の機能は徐々に回復します。移植手術の時間は5から6時間位ですが、2回目以上の手術だったり、補助人工心臓の植え込まれた患者さんであったりした場合には、10時間くらいかかります。


図1 心臓移植手術

心臓移植後の経過

入院期間

移植手術後は集中治療室で手術後の循環呼吸の管理が行われます。移植1週間後に行われる心筋生検で急性拒絶反応がなければ一般病棟へ移れます。
一般病棟に移ったのちは急性拒絶反応に留意する一方、筋力回復のためにリハビリテーションを積極的に行います。また、退院後の自己管理について指導を受け2~3ヶ月程度で退院になります。長期の安静のため著しい筋力低下がある場合はリハビリテーションに少し時間を要します。
また心筋生検で拒絶反応が疑われたときは治療のために入院期間が延長する場合もあります。この間患者さんは積極的にリハビリテーションに取り組み、退院後の日常生活や社会生活への復帰に向けて体調を整えることになります。

拒絶反応

人間の身体には自分でないものが体内に入ってきた場合、これを認識し排除する機構が備わっており、免疫機構と呼びます。リンパ球などが関わっており、免疫担当細胞とも呼ばれます。移植臓器が非自己と認識され、レシピエントのリンパ球によって移植臓器が破壊される反応を拒絶反応といいます。移植後早期に起こり心筋に傷害を起こす急性拒絶反応と、移植後数ヶ月以降に冠動脈病変として現れる慢性拒絶反応があります。
急性拒絶反応はほとんどの患者に起こりえます。症状としては、発熱(多くは微熱)、全身倦怠感、むくみなどがあります。重症になると心不全に陥ることがあります。この急性拒絶反応は移植後3ヶ月以内に起こることが最も多く、それ以降は減少します。拒絶反応が起こっても早期発見、治療で多くの場合よくなります。拒絶反応の予防するためには免疫抑制薬の服用を続けなければなりませんが、急性拒絶反応の場合は免疫抑制薬の増量や他の免疫抑制剤の追加が行われます。どんな治療を行っても拒絶反応が治らず、心機能が低下した場合には再移植が必要となります。
慢性拒絶反応は、移植後5年で20~30%の人に起こると報告されています。その原因は不明ですが、高血圧や高脂血症の予防がその発生を抑える効果があると言われています。またサイトメガロウィルス感染が発症に関係することが知られており、その予防が大切です。移植された心臓は神経が取り除かれているため、慢性拒絶反応による冠動脈硬化が進行して虚血を起こしても胸痛を感じません。このため慢性拒絶反応の初期には全く症状がなく、ある程度進行して突然心不全症状が現れます。慢性拒絶反応が高度に進行した場合には再移植が必要となることがあります。

心筋生検

負担のかかる検査ですが急性拒絶反応を見つける上で重要なものが心筋生検です。
この検査は頚部(首の付け根で通常は右側)または鼠径部(足の付け根)に局所麻酔をした後に2~3mm程度の皮膚切開をします。ここから穿刺法で心筋バイオプシー用の鉗子を右心室の中に挿入し、右室壁の異なった箇所から心内膜や心筋組織を数個採取します。その後鉗子を抜去して5~10分間圧迫して止血します。採取された心筋組織に拒絶反応が認められるかどうか顕微鏡で調べます。
この検査は拒絶反応の早期発見に非常に重要で、心臓移植直後は毎週、その後は2週間から6週間毎に、移植1年後までは2ヶ月に1回の間隔で行われます。それ以降は4ヶ月に1回、また拒絶反応が認められた場合には随時追加して行われます。

感染症

免疫抑制薬使用に伴い、感染に対する抵抗力は低下し、細菌、真菌、ウイルスなどの感染症にかかりやすくなります。移植手術後の一週間、および免疫抑制療法を強力に行わなければならない時期は厳重な感染防止が行われます。病状が安定するにつれて外出することも出来るようになります。しかし移植後、最も感染を起こしやすいところは肺なので、マスク着用し、手洗い、うがいを励行することが必要です。退院後人ごみに出かける時や病院へ行く時にはマスク着用したほうがよいでしょう。
齲歯により移植した心臓の感染(感染性心内膜炎)を起こすことがあります。そのため歯の衛生には日頃から十分気を付けなければいけません。

日本の心臓移植成績

日本の心臓移植は絶対数が少ないものの、移植後の生存率は、5年後91.4%、10年後89.3%(2014年12月31日現在)と諸外国と比較しても良好です。
詳しくは、日本心臓移植研究会のホームページ(http://www.jsht.jp/ )をご覧下さい。

参考資料

3.補助人工心臓

末期的な重症心不全の患者さんにおいて、強心剤や短期間使用の機械的補助循環装置の装着にても血行動態を保つことのできない場合、補助人工心臓が考慮されます。補助人工心臓とは、自分の心臓の働きを一部かたがわりする人工のポンプで、心臓から直接血液を吸引して、ポンプの力で血液を大動脈に送り出します。これにより正常の心臓と同等量の血液を全身に送ることができるようになります。この補助によりいったん落ち込んだ心機能が回復して補助人工心臓を離脱できる場合があります。一方心機能が回復しない場合にはそのまま心臓移植までの橋渡し治療として使用されます。

主な補助人工心臓装着の適応として、

  • 重症の急性心筋炎
  • 薬物でもコントロールできない重症不整脈(心室頻拍や心室細動)
  • 心臓手術後に人工心肺を離脱できないほど心機能が低下した場合
  • 心筋症などで心機能が高度に低下した場合

などが挙げられます。

補助人工心臓の種類

補助人工心臓には、ポンプの役割をする血液ポンプを体外に置く体外設置型と、体内に植え込む植込み型とがあります。日本では2010年までは体外設置型の補助人工心臓のみが保険診療が可能でした。海外では10年以上前から植込み型補助人工心臓が普及しており、日本でも2011年4月から保険診療が可能になりました。

体外設置型補助人工心臓

体外設置型補助人工心臓は、急性重症心不全に対して1ヵ月程度の使用を目的としており、制御が簡単で信頼性の高い空気圧駆動方式で、心臓のように拍動性に血液を送り出し、血液ポンプ、制御駆動装置とも体外に設置されるものです。図2は体外設置型補助人工心臓を装着している男児のイメージ図です。長らく日本では体外設置型補助人工心臓のみが保険適用となっており、心臓移植までの橋渡し治療としても用いられてきました。


図2. 体外設置型補助人工心臓が装着されている患者さんのイメージ

改正法施行前に移植を受けられた69名のうち、この体外式補助人工心臓を装着していたのは42名(約60%)と過半数を占めていました。しかし、今後は本邦でも植込み型補助人工心臓が普及することで、本来の使用目的である急性心不全や慢性心不全の急性増悪で全身状態が極めて悪化した患者に対する短期間の補助目的に使用されることになると思われます。ただし、植込み型補助人工心臓を植え込めないような体格の小さい患者は、今後もこの体外設置型補助人工心臓の適応になります。

植込み型補助人工心臓

植込み型補助人工心臓は、血液ポンプが体内に埋め込まれ、携帯コントローラー、バッテリーにつながるケーブルが上腹部から出ています。前述の体外設置型補助人工心臓の血液ポンプに比べ小型化されています。駆動方式は拍動式ではなく、非拍動性に血液を送り出します。血液ポンプ内にある羽根車やプロペラが高速回転することにより血液を送り出します。2011年4月から、サンメディカル社のEVAHEARTとテルモ社のDuraHeartという国産2機種の保険診療が開始され、2012年12月までに約100人の重症心不全患者に埋め込み手術がなされています。植込み型補助人工心臓の最大のメリットは在宅治療が可能になることです。補助人工心臓治療により全身状態が十分に回復し、患者と介護者が機器の取り扱い方、機器の名称などの筆記テスト、また緊急時対応やケーブル部位の消毒法などの実技試験に合格すれば退院が可能になります。介護者や地域社会のサポートがあれば職場復帰、復学なども可能になります。ただし、体内設置型補助人工心臓管理が可能な病院から遠方には居住できません。またシャワーは可能ですが入浴は禁止などいくつかの生活制限は伴いますが、2年~3年という長い移植待機期間を在宅治療で過ごすことで生活の質はとても高いものになります。

補助人工心臓装着術

補助人工心臓の植込み術は全身麻酔下に行われます。まず、前胸部の皮膚を喉仏の少し下からみぞおちまで切開し、さらに胸骨を縦に切開します。次に血液ポンプを収納するポケットを腹部に作成します。人工心肺装置を使って全身の循環を維持するようにして、左心室に流入管をつなぎ血液ポンプに接続します。送血管を血液ポンプにつなぎ、大動脈に縫着します。ケーブルの出口を作成して、ケーブルを体外に誘導します。血液ポンプと携帯コントローラーを接続して補助人工心臓を駆動させます。最後に人工心肺装置を外して胸を閉じます。
手術時間は6~12時間程度ですが、以前に心臓手術を受けたことがある場合は、手術時間が長くなることがあります。


図3 植込み型補助人工心臓装着

出典:伊藤 学、森田 茂樹(2011)「心補助人工心臓装着の要点とピットフォール」
『日本外科学会雑誌』112(5) p.345 日本外科学会。

補助人工心臓装着術後の経過

手術が終わるとICUで術後の管理や薬物投与が行われます。人工呼吸器が外れた後も、全身状態に応じて数日~2週間程度ICUに滞在します。容態が安定すると一般病棟へ移ります。一般病棟ではリハビリテーションが行われます。植込み型補助人工心臓を装着した場合は、退院に向けたトレーニングが患者と介護者に行われます。自宅の環境整備や地域公共機関への情報提供などののちに退院となります。手術から退院までは数ヶ月を要します。

補助人工心臓装着後の合併症

  • 脳血管障害
    血液は異物に触れると固まって血栓を形成する性質があります。この現象が人工心臓の中で生じ、血液に乗って血栓が流れ脳梗塞などの塞栓症を引き起こします。この血栓形成を予防するために抗凝固剤(ワーファリンなど)や抗血小板薬を服用する必要があります。これらの薬の効果が強くなりすぎるとその副作用で出血傾向となり、脳出血を起こすことがあります。
  • 感染症
    体外設置型補助人工心臓では流入管と流出管が、体内設置型ではケーブルが皮膚を貫通しています。そのためそこに細菌が付着し、体内に侵入することで感染症を起こすことがあります。
  • 装置故障による循環不全
    血液ポンプなどに機械的な問題が発生した場合は、突然心臓の補助が停止してしまいます。その際にはポンプやコントローラーを緊急で交換する必要があります。