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冠動脈疾患

キーワード

虚血性心疾患 狭心症 心筋梗塞 心室瘤 冠動脈硬化 冠動脈プラーク
冠動脈狭窄・閉塞 冠動脈形成術(PCI) 冠動脈ステント 冠動脈バイパス術(CABG) オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB) 動脈グラフト 静脈グラフト 内胸動脈 左室形成術

  1. 冠動脈疾患について
  2. 診断、検査について
  3. 治療

1.冠動脈疾患について

心臓には心筋に酸素や栄養素を供給するため、冠動脈という血管が表面に張り巡らされています。冠動脈は左冠動脈、右冠動脈があり、左冠動脈はさらに前下行枝、回旋枝に分かれるため大きく3本の枝に分かれます(図1)。動脈硬化などが原因で冠動脈に狭窄、または閉塞を生じると、心筋に十分な血液が供給できなくなります。その結果、心筋が酸素欠乏状態になる疾患を冠動脈疾患といいます。代表的な疾患に狭心症や急性心筋梗塞があります。
冠動脈疾患は主に胸痛、胸部圧迫感などの胸部症状を自覚します。場合によっては背部痛、上腹部痛、肩の痛みなどを感じる場合や、息苦しさ、冷や汗などを伴う事もあり症状は様々です。以下に代表的な冠動脈疾患を紹介いたします。


図1 冠動脈イラスト

出典:末次 文祥著、池田 隆徳監修(2014)『心臓外科医が描いた正しい心臓解剖図』
“左前斜位像” p.38 メディカ出版。

1-1 労作性狭心症

運動などにより胸部症状が引き起こされる狭心症です。動脈硬化などが原因で冠動脈に器質的狭窄を認めています。そのため、日常生活では症状を認めませんが、運動などの心筋の酸素需要が増加した際に心筋虚血を引き起こし症状を自覚します。一般的に硝酸薬による症状改善を認めます。胸部症状を自覚していない時には心電図検査などで変化を認めず、症状を呈した際に心電図の変化を認めます。

1-2 冠攣縮性狭心症

冠動脈に器質的な狭窄を認めていませんが、冠動脈が一時的に痙攣(スパズムと呼びます)することにより冠動脈狭窄を来たし、心筋虚血を引き起こす狭心症です。症状は運動などの特定な時に限られず安静時にも生じます。そのため安静時狭心症と呼ばれる事もあります。治療は冠動脈の痙攣を予防する薬物治療が中心となります。

1-3 不安定狭心症

突然の症状出現、症状の悪化を認め、狭心症発作を頻回に繰り返す重篤な狭心症です。安静時でも症状の改善が得られにくくなり短期間に症状が悪化する可能性があります。

1-4 急性心筋梗塞

冠動脈が完全に閉塞し心筋の一部が壊死した病態です。壊死した心筋は元にもどることはありません。症状は狭心症より強く持続時間も長く硝酸薬もほとんど効果はありません。心不全、不整脈、心臓突然死などを引き起こす可能性があります。

不安定狭心症や急性心筋梗塞などの場合、数日から数週間以内に病態が急変する可能性があります。これらを急性冠症候群と呼び重篤な冠動脈疾患です。直ちに医療機関の受診が必要となります。

2.診断、検査について

胸痛などの自覚症状を認め、医療機関を受診した場合様々な検査が行われます。安静時心電図検査、胸部レントゲン、採血検査を行い冠動脈疾患が疑われる場合は更なる精密検査が必要となります。以下に冠動脈疾患で用いられる検査を示します。

2-1 運動負荷試験

労作性狭心症など安静時の検査で診断が困難な場合行います。階段昇降やウォーキングマシーンよる運動を実際に行い、運動時の心電図変化を測定し心筋に虚血があるか診断します。マスターダブル心電図、トレッドミル試験、エルゴメーター試験があります。

2-2 心臓カテーテル検査(冠動脈造影)

 手首、腕の血管や足の付け根の血管からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、冠動脈を直接造影します。冠動脈病変の部位、狭窄の程度が正確に診断でき非常に重要な検査です。急性心筋梗塞などの場合は検査に続いてカテーテル治療が行われます。


図2 左冠動脈造影

2-3 CT検査

 造影剤を用いたCT検査で冠動脈を描出し、狭窄部位を診断します。最近のCT機器の精度向上による、非侵襲的なCT検査でも冠動脈狭窄が診断できるようになってきております。

2-4 心臓核医学検査

 微量の放射線物質を投与し安静時、運動負荷時の変化を記録し心筋虚血部位を検査します。実際の心筋虚血を画像で確認できます。

2-5 心エコー検査

 心臓の動き、心筋の厚さ、弁膜症の有無などを診断します。非侵襲的検査で心臓の動きを直接的に確認できる検査です。

3.治療

それでは冠動脈疾患と診断された時、どのような治療が存在するのでしょうか。冠動脈疾患の治療は大きく分けて薬物療法、カテーテルによる治療(冠動脈形成術)、外科手術(冠動脈バイパス術)があります。以下に詳細を示します。

3-1 薬物療法

血液をサラサラにし、血栓形成を予防するアスピリンなどの抗血小板薬、心臓の酸素需要量を減らし狭心症発作や心不全、不整脈を予防するβ遮断薬、冠動脈を拡張させる冠血管拡張薬、高脂血症治療薬などがあります。また、狭心症発作時に使用する硝酸薬があります。冠動脈疾患の治療は生活習慣の管理と薬物療法が基本です。

3-2 冠動脈形成術(PCI)

ガイドワイヤーやカテーテルを使用し、冠動脈狭窄部、閉塞部を直接拡げる治療です。冠動脈狭窄部にガイドワイヤーという細いワイヤーを通した後、狭窄部にバルーンと呼ばれる小さな風船を通し、それを広げることにより狭窄部を直接拡張させ、さらにステントと呼ばれる小さな金属製の筒を狭窄部に挿入、拡張し冠血流を確保する治療法です。以上のように直接的に冠動脈狭窄部、閉塞部を治療します。特徴としては外科手術と比較し侵襲度が低いこと、時間的アドバンテージに優れていることなどがあげられます。問題点としては一度拡張した病変部が再度狭窄する再狭窄を認めることがあります。現在、再狭窄予防のため薬物溶出性冠動脈ステントが広く臨床で用いられており、以前のステントと比較し再狭窄率は低下していますが、治療後の生命予後、心筋梗塞発症率の改善までは証明さえておりません。

3-3 外科手術(冠動脈バイパス術:CABG)

冠動脈狭窄、閉塞部のさらに先の末梢側の冠動脈にグラフトと呼ばれる新しい血管を吻合し、新しい血行路を再建する外科手術です。外科手術のため全身麻酔が必要ですが、狭窄部を迂回して新しい血行路で心筋に血液が供給されます。そのため狭窄部の病変が進行した場合も冠血流を確保することが可能です。
手術に用いられるグラフトは自身の血管を採取して使用します。代表的なグラフトには動脈グラフトである内胸動脈、橈骨動脈、胃大網動脈、静脈グラフトである大伏在静脈があります。長期グラフト開存率に優れたグラフトは内胸動脈であり、多くは冠動脈の中で最も重要である左冠動脈前下行枝のバイパス手術に用いられます。
手術法は人工心肺を使用し心臓の拍動を停止して行う方法や人工心肺を使用しないで心臓を拍動させたまま行う冠動脈バイパス術(OPCAB; off pump CABG)も行われています。血圧などの血行動態が不安定であり、人工心肺による補助が必要な場合、人工心肺使用心停止下冠動脈バイパス術が行われる事があります。我が国における冠動脈バイパス術は、OPCABの比率が高い(約60%)という特徴があります。

図3 PCI vs CABG
Copyright (c) 2015 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.
PCIでは、いまある狭窄病変は治療されるが、将来新たな狭窄病変が出現した場合には、その新規病変に対する治療効果はない。
それに対して、CABGでは、バイパスされた冠動脈領域に新たに狭窄病変が出現しても、その治療効果は持続しうる。

冠動脈疾患の治療において冠動脈形成術と冠動脈バイパス術はどちらも冠動脈の血行再建を目的としていますが、それぞれ長所、短所を有しています。治療の選択については患者さんの病態、合併症、侵襲度、安全性など総合的に適応を判断する必要があります。一般的に複数の冠動脈に狭窄病変が及んでいる場合や、左冠動脈主幹部などの重要な冠動脈の部位、またはその付近に狭窄病変を有するなど重篤な場合は冠動脈バイパス術が選択されます。

2010年度の胸部外科学会の統計では、単独冠動脈バイパス術は全国で15,521例行われており、そのうち9,510例(61.3%)が人工心肺を使用しないOPCABが行われております。待期的に行われた冠動脈バイパス術(透析患者を除く)の成績は人工心肺を使用した場合、OPCABの場合どちらも入院死亡率は約1%です。手術技術の向上、治療戦略、医療機器の進歩により成績は向上しております。尚、冠動脈疾患に対しては冠動脈外科学会でも全国アンケート調査を行い、日本の冠動脈外科手術についての成績を公開しています。

日本冠動脈外科学会(http://www.jacas.org/