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心臓弁膜症

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心臓弁 大動脈弁 僧帽弁 肺動脈弁 三尖弁 心臓弁膜症 大動脈弁狭窄症 大動脈弁閉鎖不全症 僧帽弁閉鎖不全症 三尖弁閉鎖不全症 心不全 感染性心内膜炎 弁置換術 弁形成術 人工弁 機械弁 生体弁 ワーファリン 

  1. 弁あるいは弁膜症とは?弁膜症にはどんな種類がある?
  2. 弁膜症は進行すると何が起こる?(心不全との関係について)
  3. 弁膜症の治療法は?外科治療はどういう治療がある?
  4. 人工弁とワーファリン、弁形成術について
  5. 感染性心内膜炎について

1.『弁』とは?『弁膜症』とは?

1-1 心臓弁とは?

例えば水などが流れる回路の中で流れを流すあるいはせき止めることを調節する機構です。人体では血液の流れる方向を調節しています。図のように心臓の中にはいくつかの部屋がありますが、部屋同士の区切りに『弁』が存在し血液を順方向だけに流すことで血流を常に前方に駆出しています。実際には心臓『弁』は厚さが0.2-1.5mm程度の非常にしなやかな膜状の構造物で、『弁』の種類によっては心臓内側に付着するひも状の構造物(腱索と呼びます)によって支持されています。現実に成人の心臓外科治療上で頻度が高いものには3つの弁があげられます。図1に示す大動脈弁、僧帽弁、三尖弁の三つです。


図1 心臓割面イラスト A

出典:末次 文祥著、池田 隆徳監修(2014)『心臓外科医が描いた正しい心臓解剖図』
“両心室と大動脈基部を含有する断面図” p.54 メディカ出版。


図1 心臓割面イラスト B

出典:末次 文祥(2015)「まる暗記不要!イラストでひと目で理解 心臓の解剖」
『HEART nursing』2015年4月号 p.12 メディカ出版。

1-2 心臓弁膜症とは?

では『弁膜症』とは何なのでしょうか?『弁』を一種の『扉」と考えてその故障について考えてみるとわかりやすくなります。『扉』の故障とは機能上は2種類しかありません。つまり『なかなか開かない、開きづらい』、と『開いたままである、閉まっても隙間があある』という2つの故障です。『弁膜症』もまさにこの二つに集約することができます。『開きづらい』ものを『狭窄症』、『開いたまま』のものを『閉鎖不全症』または『逆流』と呼びます。先程あげた3つあるいは4つの弁の種類と、今あげた2つの故障のパターンを組み合わせると弁膜症の種類が理解しやすくなります。つまり、『大動脈弁・閉鎖不全症』や『僧帽弁・狭窄症』と言った具合です。以下によく知られた弁膜症について述べます。

A. 大動脈弁狭窄症(Aortic stenosis: ASと略)

図の左心室と大動脈の境界にある弁が大動脈弁です。この弁が石のように硬くなってしまう病態で、弁が開きづらくなります。加齢変化で緩やかに進行しますが、症状が出てくると治療に緊急を要する場合があります。

原因:先天性では二尖弁、後天性としてはリウマチ性、変性があります。
症状:息切れ、胸痛、失神などがよく知られています。ただし症状の自覚がなくても重症化している場合があり、突然死の危険もある疾患です。

B. 大動脈弁閉鎖不全症
(Aortic regurgitation: AR、またはAortic incompetence: AIと略)

弁が菲薄化して脆弱になることや弁の枠である弁輪が拡大することなどから逆流を生じます。

原因:大動脈弁輪拡張症(Annulo- aortic ectasia: AAEと略)や弁の脆弱化や破壊などによる落込み・変形などが原因となります。
症状:動悸、息切れなどがあります。失神や突然死は相当重症化した場合以外は殆どありません。

C. 僧帽弁閉鎖不全症
(Mitral regurgitation: MR、またはMitral incompetence: MIと略)

左心房と左心室の境界に位置する僧帽弁が逆流をきたす疾患です。

原因:粘液種様変性、腱索断裂、弁輪(弁の枠)拡大などがあります。
症状:無症状の場合もあります。労作時息切れ、易疲労感などがあります。

D. 僧帽弁狭窄症(Mitral stenosis: MSと略)

僧帽弁が硬くなり弁の動きが制限される疾患です。

原因:リウマチ性が主です。
症状:息切れ、疲れやすさ、動悸、脈の不整などがあります。長い年月をかけて病態・症状が進行します。

E. 三尖弁閉鎖不全症
(Tricupid regurgitation: TRまたはTricuspid incompetence: TIと略)

右心房と右心室の境界にある三尖弁が逆流を来す疾患です。

原因:先天性ではEbstein奇形、後天的には僧帽弁疾患による右心室拡大などがあります。
症状:下肢(足)の浮腫、腹水、肝腫大、易疲労感などがあります。

2.弁膜症は進行すると何が起こる?(特に心不全との関係について)

2-1 大動脈弁閉鎖不全症を例にとって

ではこのような弁膜症は進行すると何が起こるのでしょうか?『大動脈弁閉鎖不全症』を一例にとって考えてみましょう。大動脈弁閉鎖不全症は、左心室から大動脈へ駆出した血液が再度左心室に逆流してしまう病態です(図2参照)。この状況が心拍一拍毎に起こっています。これが積み重なるとどうなっていくのでしょうか?


図2 大動脈弁閉鎖不全症

2-2 心臓自体に対する影響

まずは心臓そのものに注目しましょう。この疾患は左心室から出た血液が逆流するわけですが、同時に通常通り左心房からも血液は流入し続けます。それが続くと左心室にはいつもより過剰な量の血液が貯まることになります。この状態が継続すると、その量的な負担から左心室は徐々に拡大傾向を呈します。心臓は筋肉からなる臓器なのでそう簡単に破裂したりはしません。しかし引き延ばされた心臓の筋肉(心筋)は徐々にその『収縮力が低下』していきます。つまり有効な拍出量が時間経過と共にさがって来ます。その状況が積み重なると、ある時期に急にその量的な負担に心筋が耐えられなくなり収縮力がさらに低下する状態となります。そうなると全身を循環する血液量が著名に低下し、いわゆる『心不全』の状態となります。一度低下した心機能は、早い段階で内科的(薬物治療等)に対処すれば改善する可能性も高いです。しかしこの心不全は、繰り返す毎に寿命が著名に短縮します。

2-3 心臓以外の他臓器に対する影響

次に心臓以外の臓器について考えてみます。心拍出量が低下すると合わせて各臓器の血流量が低下し臓器の機能が低下していきます。典型的には、筋肉という臓器は運動によって多くの血流を必要とします。しかし血流量が減るとこの変化に応えられなくなり筋肉の持久力が低下し『疲れやすい』などの症状が現れてくるのです。この状態が各臓器(例えば肝臓や腎臓など)において極端に進行すれば機能低下が慢性化し不可逆な状態となります。
このように弁膜症は最終的に、心臓自身に対しても他臓器にとっても悪影響を及ぼします。

今は大動脈弁閉鎖不全症を例に挙げましたが、弁膜症の問題点とは全ての弁膜症は徐々に(あるいは急に)心不全状態に近づくことだと言えます。この心不全は一時的には薬物でコントロールできても長期的な治癒は困難になって行きます。そのため心不全の状態に落ち込む前かあるいは落ち込んだら早期に何らかの治療を行うことが望ましいのです。

3.弁膜症の治療法は?外科治療はどういう治療がある?

3-1 弁膜症と内科治療

前章では大動脈弁閉鎖不全症を例に挙げて心不全の状態を仮定して考えてみました。心不全は致死的になりうる病態なので、緊急の対処が必要になります。このような急性心不全に対してはまず内科治療を考慮する訳ですが、実は原因となっている『弁膜症』に対して直接的に効果のある内科治療はありません。この点は非常に重要で『弁膜症』に対する内科的治療は『弁』そのものを治療できない、ということです。弁膜症における内科治療は『心不全に陥る時期を先送りすること』及び『一時的に心不全を改善することが可能』というだけで、『弁膜症』そのものは治療していないのです。そこで外科治療の出番となるわけです。

3-2 弁膜症と外科治療

外科治療は形態を修復することで機能回復を計る治療であり、『弁膜症』を直接治療できる利点があります。具体的には、弁の壊れ方がひどければ人工の弁に取り替える治療つまり『弁置換術』、壊れ方がひどくなければ修理する治療つまり『弁形成術』が選択されます。ただしこの選択は壊れた弁の種類や行う外科医によって多少基準が異なるので注意が必要です。現実的にはこの2つの方法で殆どの弁膜症に対処が可能です。

3-3 弁膜症外科治療とそのタイミング

ただしその外科治療にも問題がないわけではありません。外科治療はこのように『弁膜症』を治療することは可能ですが、高度に低下した心機能(心不全)の状態を改善させる外科治療というものが現状ではないのが実状です。従って弁膜症に罹患した場合、内科治療からどのタイミングで外科治療を考慮するかについては、弁膜症の状態とあわせて心機能の状態を考える必要が出てきます。以前は内科治療で心不全まで経過を見て、外科治療は最後の砦といった治療方針でした。しかし最近では心臓外科手術の成績もだいぶ向上してきました。胸部外科学会の2010年の成績では、平均的には弁膜症の初回手術後30日での死亡率は2-5%程度です。軽症であれば1-2%で済む場合も少なくありません。これは世界的に見ても欧米に全く劣らない成績です。こうなってくるとむしろ外科治療を乗り切った後の患者さん達のライフスタイルを医療サイドでも考慮する必要が出てきます。また逆に心機能が低下してしまった状態で手術を行うことには、患者さんにデメリットが生じてくることがわかります。こういった背景から、現状では可能なら心機能が低下する前や心不全に陥る前に手術を選択する方がライフスタイルには好影響であると考えられてくるようになってきました。このように手術の種類やその時期の選択については医療サイドに様々な統計資料がありますので、弁膜症と診断されたときはかかりつけの内科医師とよく相談し、場合によっては外科医の意見も聞くことも有効でしょう。是非、より正しい疾患の知識を得てよりよい選択をして頂きたいと思います。

4.人工弁とワーファリンについて


A 機械弁

B 生体弁
図3

先の章であげた弁置換手術には、人工弁が用いられます。現在人工弁には大きく分けて二種類(機械弁と生体弁:図3参照)があります。両者の特徴について表1に示します。使用頻度は最近はほぼ二分されています。両者の適否を考慮する際に重要なのは、耐久性とワーファリン内服をどう考えるか、ということに帰着します。

  機械弁 生体弁
耐久性 耐久性良い 15~20年で2~3割が再手術
ワーファリン 終生必要 術後3~6ヶ月のみ必要

4-1 機械弁の特徴(図3 A)

機械弁は機能上大変長持ちする人工弁です。しかし装着後にはワーファリン内服は必須になり、この管理に様々な注意が必要となります。一つは飲み合わせの問題で、薬物相互作用(他の薬剤との相互作用)によってその効果が大きく変わりうる点です。また食事にも制限が出てきます。二つ目は定期的なチェック(最長でも一ヶ月に一度以上の採血)が必要でかつ内服量が変わりうる点です。そして三つ目は、機械弁装着の場合は内服を中止することはできなくなること、四つ目は脳出血・梗塞といった血行に由来する合併症頻度が特に高齢になると高くなることなどです。

4-2 生体弁の特徴(図3 B)

一方で生体弁の場合、ワーファリン内服は弁置換後の初期3-6ヶ月間でよいとされており、その点では有利と言えます。しかし時間経過の中で生体弁には異なった問題点が出てきます。それは耐久性の問題です。どちらの弁を選択するかは主治医とよく相談して決めるのがよいでしょう。

4-3 弁形成術の位置づけ

このような人工弁のジレンマを解消するために考案されたのが、自己弁をなるべく維持して病変部のみを治療する弁形成術です。ただし形成術は、治療が可能な弁や重症度に限りがあるので主治医とよく相談の上、治療を決定して下さい。

5.感染性心内膜炎について

今までの話からは少し離れますが、最後に感染性心内膜炎という病態について触れたいと思います。感染性心内膜炎とは、細菌が心臓の内側に付着しその構造を破壊する病態です。弁もこの例外ではなく細菌によって破壊されて閉鎖不全症となることもあります。さらに進行して急性に心不全となり致死的な状態となることもあります。また細菌が塊となって血行性に飛び、脳塞栓などの重篤な病態を引き起こすこともあります。細菌そのものが血中を移行する状態は敗血症として知られ、致命的な臓器不全状態となります。このように感染性心内膜炎は迅速で的確な対応と外科治療タイミングが難しい疾患として知られています。またこの疾患に罹患すると20-50%が死に至るとも言われています。

原因としては口腔内感染がよく知られています。例えば、う歯(虫歯)、歯周炎、歯槽膿漏などと言った比較的日常的に見られる病気でもきっかけとなることがあるので日頃か注意が必要です。正確な歯磨き法(ブラッシング)、定期的な歯科受診の予防効果は大きいと言われています。今回紹介した弁膜症はその予防が困難な病気が殆どですが、中にはこのように予防が効果的な疾患もあります。ぜひ皆さんも出来ることから始めて心臓病を予防していきましょう。