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「胸部外科学会からの提言」について2008年4月16日(水)午後3時より記者会見を行いました。

胸部外科学会からの提言

特定非営利活動法人日本胸部外科学会
会員各位

理事長 田林 晄一

本会は、胸部臓器外科の学術を発展させ、社会貢献を果たす役割を持つ職能団体であります。
これまで、医療の質と向上安全管理、医療関係者の労働環境改善、種々の情報公開に尽力し、また専門医制度を含めた生涯教育の分野で社会の要望に応えるべく努力をしてきました。
しかし、2004年に開始された初期臨床研修制度の義務化、それと関係性を有すると考えられる医療関係者の偏在化、医師過重労働、医療事故問題の増加等が顕在化し大きな問題となっています。
このような状況を鑑み、本会理事会ではその対策について昨年より議論を重ねてきました。
この度、その検討結果を「我が国の医療供給体制改善—日本胸部外科学会からの提言—」として纏めました。

この提言内容を関係団体に送付し、2008年4月16日(水)午後3時からマスコミ等に公表しました。
衆参国会議員にも4月16日付けお送り致しました。
ご報告申し上げます。

「我が国の医療供給体制改善に向けて」
—日本胸部外科学会からの提言—

我が国の医学は近年素晴らしい発展をとげ、その多くが医療に応用され、国民の福祉と健康の維持に貢献しています。しかし、その一方で医療環境には多くの問題が生じています。医師や医療専門職者などのマンパワー不足、医療経営の悪化、救急・産科・小児科医療問題、医師不足、僻地医療の疲弊、医療過誤並びに医事紛争とそれに関連するマスコミ等の過度の反応など、多くの問題があげられます。現在の政府の医療費節減政策のもとでは医療提供システムの改善はもとよりその維持も難しく、国民の要望に答えられないばかりか、世界からも取り残されて行くと危惧します。

日本胸部外科学会は、胸部臓器外科の学術を発展させ、もって社会貢献を果たす役割を持つ職能団体であります。発足以来60年の歴史を持ち、その活動は国際的にも高く評価されていると自負しております。本学会理事会では長らく担当する医療の質の向上と安全管理、さらに専門医制度を含めた生涯教育の分野で社会の要望に応えるべく努力してまいりました。しかし、適切な医療を提供する基盤が大きく揺れ、関連外科分野全体が危機的な状況に至った昨今の状況に鑑み、日本胸部外科学会は以下の事項について提案します。

1)医師不足対策ならびに地域医療整備
現在の医師の分野別、地域別の不均衡や若手医師の都会志向は平成14年に始まった新医師臨床研修制度がその施行によってもたらされる新たな状況を予見できなかったことに原因の大半があるといっても過言ではありません。本制度は、当初から大学病院、一般病院を含めた病院間の医師配分に関して懸案が多かったところであります。現実には、特に地方の大学病院に若い医師が集まるシステムが一時的にせよ崩壊し、一挙に増やされた研修病院がその指導の立場を負うことになると共に、医師確保の面では若手医師の売り手市場にもなり、労働条件が良くリスクの少ない分野へ多くの医師が集中しています。これは患者さんの立場に立てば歓迎される処ではないと考えます。

先般、医師不足や地域間格差解消のため研修医をはじめ医師を拠点病院に集約する案が政府で検討されていると報道されました。大学病院から地域拠点病院に若手医師のシフトが一段と促進されると思われます。しかし世界の医療先進国では大学病院が中心となり、基幹関連施設とともに先進診療や地域医療、そして何よりも医学生及び医師の卒前・卒後教育の中核を担っています。日本の医学部は今や卒前教育の充実に多大の努力を傾け、卒後教育でも良い医師の育成に大変な努力を払っています。大学医学部、附属病院の空洞化は日本の医学医療に大きな混乱を生むでしょう。無論、まず大学病院が若手医師に魅力あるものを目指し大きく方向転換せねばなりません。しかし、それと共に医師の基礎的および専門的臨床技能の習得、さらに専門医の育成において、大学医学部、附属病院は各地域の基幹病院と連携し、医師の生涯研修および適切な地域医療整備等の役割を担うべきであります。

また、専門職能団体であり専門分野の医療の供給に大きな責任がある臨床系学会も、その役割を一段と強化することが重要であります。臨床の基幹学会は、地域医療の円滑な推進のため専門医や認定基幹施設を活用し、初期研修から後期の専門医修練を包括したプログラムを運営し、社会のニーズに対応すべき責任があると考えます。加えてかかる対応の中には、各専門分野や地域性を考えた合理的な施設集約化を含むべきであると考えております。

2)医療従事者の労働環境整備
医療従事者を取り巻く今日の環境は厳しく、なかでも医療におけるマンパワーの不足は欧米諸国と比較すると著しいものであります。最近の看護師の施設基準7対1誘導の結果、看護師の大きなシフトが生じ、地域格差を増悪させた要因になっており、今後修正が必要と考えます。一方医師に関し、小児科・産科や多くの外科系では当直明けの勤務は日常化しており、過酷な勤務状態が続いていることは広く認識され、安全管理にも問題を生じている処であります。国民の医療体制に関する満足を保障するため、是非このような状態を改善しなければなりません。

我々はここ何年か会員の働く環境についてのアンケートを行っていますが、過度の労働を続けている状況に特段の改善はみられていません。特に外科系では術前準備、手術、術後管理など全般にわたり若い外科医が過度に働かねば手術がこなせない状況にあります。学会が認定している専門医といえども、本来他の職種が行うべき諸用に追われています。欧米では看護師等が上級の教育を受け、手術や麻酔に関与したり、全く新たな制度、例えばphysician assistant (PA) が登場し、医療現場で活躍しています。しかし我が国では臨床工学技士の採用すら満足に進んでいない状況があります。多様な専門職者が有機的に連携し、複雑な医療を遂行していくことが出来る制度の改革をわが国でも検討すべきであります。そして、高度医療推進の観点から、専門職者がより機能的に相寄ってチームとしてこれを進めるために、医師以外の専門職が担当できる部分を拡大し、それぞれの専門職のキャリアーアップを行い、処遇が改善されるべく制度の改革が求められています。そしてそれが患者さん方への質の高い医療行為の提供に繋がるものと確信します。

3) 専門医療技術に対する適切な健康保険制度上の評価
高い専門性を持つ医師に対して対価を設定するうえで、技術料や pay for performance (実績に応じた支払い)など、診療報酬の加算を設定することは有効な手段と考えます。国民の医療体制に関する不満の解消にはこの点の手当てが必須であります。長年の努力で培った高度の専門的技能を持つ医師の職能を正当に評価せず、医療費にフィードバックしない状況は、医師の働く意欲を下げ、質が高くかつ効率の良い医療の供給に対する大きな障害になっています。その背景に政府の長年の低医療費政策があります。政府が更なる医療費削減ではなく、最近の英国のように医療費を抜本的に増額する勇気を持たなければ、わが国の医療はさらに荒廃し、患者負担が増加していくだけではないでしょうか。専門医に対する技術料、pay for performance や pay for participation (ベンチマーキングに参加する診療報酬加算)等の診療報酬加算の導入は効率の良い、質の高い医療へシフトさせ国民の満足を得る一つの有効な方策であります。 無論、我々は医師の処遇に限って診療報酬加算を論じるものではなく、広く医療に携わる専門職者、専門医療技術にも適用すべきものと考えます。そのことが国民各位により充実した医療内容を提供するための大きな要素になると思いますが、それ故に診療報酬の負担方式や医療給付一般の負担に関して国民的な議論が必要であると考えます。

4)医療過誤、異状死対応
関係学会は、医療現場での一層の安全管理と質の保証を重要な課題としてこれに取り組んでいます。医療過誤については適切な調査と対応が必要なことは当然でありますが、医療に伴う障害や死亡が総じて刑事訴追の対象になる現状や、医師法21条による異状死の届出義務のため医療現場では混乱があり、さらに萎縮医療につながる問題が生じています。医事紛争には、事例への民事対応制の確立が必須であります。それは、医療従事者を守るというより、医療全体の質と安全管理の向上において重要と考えます。患者さんから見ても、納得の出来る仕組みや法的制度が強く求められています。

今般、厚生労働省からいわゆる「医療版事故調」の第二次試案が提示されました。検討されている委員会は中立的専門機関として、医療者が自ら医療安全を目指して医療事故の究明と再発防止を図ろうとする新しい仕組みで、また患者さんと医師の信頼関係を再構築するための新たな仕組みであります。設置予定されている委員会の予算的措置が充分考慮されたものであり、組織の運営はあくまでも政府(厚生労働省)から独立した中立的専門機関とすべきであると考えます。これらの点について考慮されれば、試案の内容に今後協力を惜しまない所存であります。

要約致しますと、以下の通りであります。

  1. 大学病院と地域基幹病院が連携した適切な医療の供給体制の確立
  2. 学会専門医制度を活用した地域医療の確保
  3. 医療専門技術に対する適切な保険制度での評価と対応
  4. 医療を支えるメディカルスタッフの充実と新たな医療支援専門職の検討
  5. 医療事故や異状死における中立的機関または迅速な対応が出来る制度の導入
  6. 充分な医療給付に向けてあるべき負担に関する国民的議論の推進

わが国の医療現場が医療供給の質と量の担保において多くの課題を抱えている現状に鑑み、学会としての社会的役割を考え上記の問題解決への提案を示し、関係各位に適切な対応を要望するものであります。

2008年4月16日

特定非営利活動法人日本胸部外科学会
前理事長 松田 暉
理事長 田林 晄一

投稿日時: 2008.05.02