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「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」について

「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案ー第三次試案ー」に対する意見について

特定非営利活動法人日本胸部外科学会
理事長 田林 晄一

 このたびの、厚生労働省より提示された「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案」[PDF:396KB]の第三次試案の内容に関し、日本胸部外科学会として以下のような見解を表明する。

  1. 総論
     そもそも、その行為の結果に大きな不確実性を伴うことが実施上不可避である医療行為は、生命の喪失という最悪の事態をもすべからく念頭に置かざるを得ない性格を有するものである。したがって、これにもとづく死亡を一般的犯罪や過失による死亡事例と一線を画して取り扱うことは医療水準の維持という視点からもきわめて重要なことであると言える。このような観点から、この試案において設置が定められている「医療安全調査委員会」の存在と基本的理念は非常に意義のあるものと考える。さらに、医師法第21条の改正に言及をしている点、個別事例の関係者を調査に従事させないとした点、遺族から調査委員会に対する調査依頼の道を明記した点、医療機関が調査委員会に届け出るべき事例がより明確にされた点、捜査機関との関係がより明確に表現された点、行政処分についての考え方が具体的に明記された点、など、第二次試案より大幅に踏み込んで内容が改善されており、今回提示された第三次試案は高く評価できるものと考える。
      一方、各論としては以下に記すような疑問点があり修正が必要なのも事実である。この試案の最後に「施行にあたっては2~3年の準備期間をとる」と記されているように、実施にはまだしばらくの時間を要することが考えられるが、早急に議論を煮詰めてよりよい形で実施されることを希望する。
  2. 各論
    1. 医療安全調査委員会の設置場所を厚労省とすることに批判的な意見が見られる一方、厚労省以外には適当な設置場所が無いのではないかという指摘もある。本委員会をいずれに設置するにしても、その中立性、独立性が十分に担保できる設置形態とすること、そしてそれが文書内に明記されることが重要と考える。また、委員会は任命権者との意見の相違を理由に罷免されず、意思決定などの面で行政機関からの独立性が高い国家行政組織法三条に基づいて設置される機関「三条委員会」であるべきである。
    2. 地方委員会の下の調査チームは事例毎に置かれると記されているが、実際に調査すべき事例が発生した時点で人選を行うという手順を想定しているのであろうか。もしそうであれば、事例発生から調査開始まで相当の時間を要することが考えられ、調査の円滑な進行が損なわれる可能性が懸念される。
    3. 中央および地方の調査委員会に法律関係者、有識者等を加えることに全く異論は無い。しかし、調査チームは純粋に専門的・科学的調査を実施しその結果を報告する業務を担うものであるため、医師以外の医療関係者を含めることは良いとしても、ここに法律家や医療を受ける立場を代表するものを含めることには賛同できない。
    4. 地方委員会の調査を記した部分(27)においては、原則として解剖を実施することを求めている。この解剖については、調査の一環として実施をすることが想定されているように解釈できるが、もしそうであれば、事例発生から医療機関内での検討を経て所轄大臣に届け出がなされ、さらに所轄大臣から地方委員会に調査命令が下り、そこから調査チームが編成されるまでの時間、解剖のために遺体を保存しておかなくてはならないこととなり、実務上大きな問題が生じると思われる。さらに、解剖についてはどの時点で誰が遺族に説明し承諾を得ることになるのかがわかりにくい。また仮に届け出前に医療機関が遺族に解剖について説明を行い、それに対して遺族が解剖を望まない場合には、届け出をしても調査が行われるかどうかが説明の時点ではわからないこととなり、遺族に対してどのように説明をすべきかなど、このままの形では現場に大きな混乱をもたらすことが懸念される。事例発生後に当該医療機関の解剖担当医によって解剖を実施してもよいのかどうか、など今回の試案ではこのような点に関する記述が曖昧なために解剖を想定した場合の流れが理解しづらく改善を要すると考える。また、同項で原則として解剖実施例とあるが、解剖がなくても調査できることを明確にしてほしい。
    5. 解剖を実施するのは「解剖担当医」と(27)の2項に記されているが。この解剖担当医とは病理解剖医を示すのか、司法解剖医を示すのか不明瞭である。死因等につき科学的に検証するためには病理学的素養の高い病理解剖医が実施する病理解剖とするべきと考える。
    6. 遺族から地方委員会への調査依頼(25)に「…遺族に代わって医療機関が行うこともできる…」という記述があるが、どのような場合を想定したものか理解できない。
    7. 地方委員会による調査(27)の第5項に、地方委員会に調査の権限を与えることが記載されているが、その直後の文章では調査を受けるものが地方委員会の質問には答えなくてもよいという趣旨のことが述べられている。これでは地方委員会に与える権限の存在意義が無くなるのではないだろうか。むしろ、調査内容が訴追等に使われる場合を想定して、特定の個人の証言という形で利用をされないように担保した上で、地方委員会の調査に対して答える義務を負わせる形にするのがよいと考える。
    8. 地方委員会による調査(30)にモデル事業における「調整看護師」のような業務を行える者の育成を図る、と記されているが、どういった場でどのような方式で育成するかといった具体性に欠ける文章で、こういうことが実現できるかどうかはなはだ疑問である。感情的対立といった側面をできるだけ排除し、純粋に科学的に状況を分析し調査を遂行するためには、このような役割の存在は不可欠であり、単に育成を図るではなく、地方委員会に置くことを義務づけることとすべきである。
      (なお、この項の文章は主語と述語が合致していない日本文としては誤ったものであり、書き直しを要する。)
    9. 捜査機関への通知(39)に「医療事故の特性にかんがみ、故意や重大な過失のある事例その他悪質な事例に限定する」と記されているが、重大な過失という表現はきわめて曖昧である。このため、次の(40)の3項に「重大な過失」とは「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると地方委員会が認めるもの」と但し書きされている。したがって、(39)においては「故意や悪質な事例、あるいは標準的な医療行為から著しく逸脱した医療であると地方委員会が認める事例に限定する。なお、標準的な医療行為からの著しい逸脱か否かの判断は、あくまでも医療の専門家を中心とした地方委員会による医学的判断であり、法的評価を行うものではない」と記載するべきである。
    10. 次の(40)が(39)と整合しない内容となっている。すなわち、(39)の文章では「故意」「標準的な医療行為から著しく逸脱した医療」「悪質」の三者が並列で記載されており、(40)はその中の悪質な事例を例示する項目と理解できる。しかるに、この中の3項では「悪質」と並列して示され他の2項目についても(39)と重複して記す形となっており、文章構成に改善を要すると考える。(39)を前項(9)で記したような文章とし、重大な過失に関する回りくどい説明を排除した上で(40)は「悪質な事例とは以下のようなものを示す」とし、1項と2項を記して3項は削除するのが整合のとれた形であろうと考える。
    11. 地方委員会の判断基準等の統一性を担保すべき手段を設けるべきである。すなわち、標準的医療行為一つをとっても、地方委員会によってその判断が異なるようなシステムでは信頼性に欠ける仕組みとなる可能性がある。多くの議論をもとに細かな点まで記した運用指針を策定すべきと考える。

 このような試みはわが国では初めてのことであり、高度化、専門化の著しい医療の実践において患者と医療者の間の信頼関係を維持していくうえできわめて有意義な仕組みとなりうるものである。拙速となることなく、真に両者にとって意義のある仕組みを作り上げるために、有意義な議論を深めていただきたい。

投稿日時: 2008.05.29