HOME > 緊急のお知らせ > 「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」改訂版

緊急のお知らせ

「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」改訂版

2020年4月10日
 
新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)
 
一般社団法人日本医学会連合 会 長 門田守人
一般社団法人日本外科学会 理事長 森 正樹
一般社団法人日本消化器外科学会 理事長 北川雄光
特定非営利活動法人日本胸部外科学会 理事長 澤 芳樹
特定非営利活動法人日本心臓血管外科学会 理事長 横山 斉
特定非営利活動法人日本血管外科学会 理事長 古森公浩
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会 理事長 千田雅之
一般社団法人日本小児外科学会 理事長 田尻達郎
一般社団法人日本乳癌学会 理事長 井本 滋
一般社団法人日本内分泌外科学会 理事長 鈴木眞一
一般社団法人日本内視鏡外科学会 理事長 渡邊昌彦
公益社団法人日本整形外科学会 理事長 松本守雄
一般社団法人日本泌尿器科学会 理事長 大家基嗣
 
1.
緒言
 世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い、今後本邦においても同陽性患者に対し外科手術を行う機会が増加することが予想される。新型コロナウイルス感染症の病態の全容はいまだ解明されていないものの、患者安全の確保、外科医を含めた医療従事者の曝露防止、医療機器への曝露予防、院内感染の防止など、周術期における新型コロナウイルス陽性患者の取り扱いに関するガイダンスの策定が急がれる。本提言は、現時点でのエビデンスおよび海外学会ガイダンスをもとに、外科医が注意すべき項目についてまとめたものである(1、2)。本提言の各項目を実践して患者や社会に十分な外科医療を継続的に提供するためには、特に医療従事者の感染リスクを過小評価してはならないこと、また、医療従事者を感染から守ることが最優先事項の一つであることを、ここに強調しておきたい。
 なお、本提言は暫定的なものであり、今後の本邦における新型コロナウイルス感染症の蔓延の程度、同疾患の病態解明の進捗、治療薬・予防ワクチンの開発状況よって本提言の内容は適宜見直すべきであることを申し添える。
 
2.
本提言の内容
 
患者および術式選択について
 
個人用防護具(PPE:Personal Protective Equipment)について
 
気管挿管・抜管時のリスク回避について
 
その他の手術リスクについて
 
手術後の対応について
 
帰宅時の対応について
 
緊急手術について
 
3.
患者および術式選択について
 新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い、待機手術の実施や延期は、医学的観点及び限りある医療資源の効率的かつ効果的な配分の観点から多角的に検討して判断する。
 
病院や診療所は手術の医学的必要性と、手術を行うために投入される医療資源およびその供給安定性の双方を、最新の情勢に基づいて判断する。
 
医学的必要性は、手術ごとの当該分野の専門家によって、手術をその時点で行う必然性、患者の病態や年齢によって異なる術後の回復期に新型コロナウイルス肺炎を発症するリスク、手術の延期がもたらす医学的危険性を総合的に検討して決定する。
 
医療資源の投入については、管理者が地域における新型コロナウイルス感染者数やその将来予測を踏まえ、それぞれの施設の有する資源(急性期病床・感染症病床・ICU病床数、医療スタッフ、人工呼吸器などの医療機器、個人用防護具(PPE)など)に加え、医療提供者及び地域の安全と健康を確保することを、個別の手術ごとに検討して決定する。
 
また上記の評価は、日々変化する国内および地域の最新の状況を踏まえてなされ、また評価は一律なものではなく地域ごとに大きな差が生じうることを認識する。
 
夜間などスタッフ数が限られる状況における緊急手術は、最大限回避すべきである。
 
手術時間の短縮および患者、医療スタッフの安全を最大限確保する観点から、術式を選択する。
 
エアロゾルを発生し得る処置としては、気管挿管および抜菅、気管切開、マスク換気、気管支鏡、胸腔ドレーン留置、消化器内視鏡、消化器などの電気メス処置、腹腔鏡などがあり、これらの処置に際しては飛沫感染のリスクが高まることを認識する。
 
腹腔鏡手術にあたっては、エアロゾル発生の原因となることを認識し、高精度フィルターおよび排ガス装置などの条件を必ず確認したうえで実施する (3)。
 
 トリアージ計画は一律に決められるものではなく、地域の医療情勢と投入可能な資源の双方を踏まえ、科学的データ並びに臨床家および病院管理の専門家の意見に基づいて立案されるべきである。また、新型コロナウイルス感染症が全ての患者にとってリスクであることは明白であるが、一方で手術を受ける患者が負う多くのリスクのうちの一つに過ぎないことも確かである。したがって手術の実施については、新型コロナウイルス感染症に関連するリスクのみならず、医学的な情報及び医療資源やその供給に関する情報も考慮して検討されるべきである。なお、待機手術前後に新型コロナウイルス感染症を発症した4例中3例が死亡に至ったとする報告があることも参考にされたい(4)。
 
 米国外科学会(ACS)が推奨するセントルイス大学のElective Surgery Acuity Scale (ESAS) をベースにした手術トリアージの目安を以下に示す。
 
段階
定義
手術の例
対応
 
1
致命的疾患でない、急を要しない外来手術など
・手根管症候群手術
・健診・ドックの消化管内視鏡 など
延期
 
2
致命的疾患でないが潜在的には生命を脅かす、または重症化する危険性あり、入院を要する疾患
・低悪性度のがん
・非緊急性の整形外科手術(股・膝関節置換、麻痺のない脊椎疾患)
・尿管結石(病状安定)
・待機的血管形成術 など
可能であれば延期
 
3
数日から数ヶ月以内に手術しないと致命的となり得る、あるいは重大な障害を残す疾患
・外傷
・ほとんどのがん手術
・麻痺を伴う脊椎疾患、外傷
・臓器移植手術
・心臓手術
・重症下肢虚血に対する血管手術 など
本提言に準じた十分な感染予防策を講じ、慎重に実施
 
4.
個人用防護具(PPE:Personal Protective Equipment)について
 
新型コロナウイルス感染者または感染が疑われる患者の手術・処置の際にはPPEの着用が米国疾病対策センター(CDC:Centers for Disease Control)から推奨されている。
 
新型コロナウイルス感染者もしくは感染が疑われる患者でエアロゾルを発生し得る処置の際にはN95マスクまたは高度な防護が可能なマスクを使用する。なお、マスクの着脱方法については、米国CDC(Center for Disease and Control)のガイダンスに即してJohns Hopkins University, Armstrong Instituteの専門家が作成した、エボラ出血熱の患者の診療におけるPPEの着脱方法に関する動画が掲載されている次のサイトが参考になる。
 
ディスポーザブルマスクおよび個人用防護具は、各施設の指針に従い適切に取り外し廃棄する。
 
マスク・防護具を外したあとは手指衛生を実施する。
 
マスクを顔に密着させることが重要である。
 
マスクを含めたPPEが枯渇することが想定されるため、各施設で在庫を確保する対策が求められる。
 
患者の病状や処置を行う場所、処置内容に合わせて推奨されるPPEについてはカンザス大学の次のサイトが参考になる。
 
N95マスクの再利用を含めた医療資源の有効な活用方法については、米国CDC(Center for Disease and Control)のホームページ中の次のサイトが参考になる。
 
5.
気管挿管・抜管時のリスク回避について
 
新型コロナウイルス感染患者のエアロゾルおよび飛沫感染が外科医の重大なリスクとなり得ることを認識する。
 
新型コロナウイルス感染患者または感染が疑われる患者の気管挿管に関わらない外科医や医療者は、麻酔導入・挿管完了および麻酔覚醒・抜管終了まで手術室の外で待機する。
 
陰圧のかかる手術室が望ましい(5)。
 
新型コロナウイルス感染患者の麻酔管理については原則として麻酔科専門医が行う。
 
新型コロナウイルス感染患者の麻酔管理についての詳細は、次の日本麻酔科学会のガイドラインが参照となる。
 
6.
その他の手術に関するリスクについて
 
手術室への医療従事者の出入りを最小限にする。
 
電気メスを使用する際は排煙装置を用いる。
 
PPEフル装備での手術はそれを要しない手術と比較して、体力の消耗や精神的な疲労が大きくなることから、短時間手術となるように努めるとともに長時間に及ぶ場合は手術を交代するための人員を準備する。
 
気管切開(https://www.entuk.org/tracheostomy-guidance-during-covid-19-pandemic)・胃管挿入・術中内視鏡検査についても、エアロゾル発生のリスクが高いため、フルPPE装備にて対応する。
 
新型コロナウイルスは様々な物体の表面で数日にわたりが感染力を有することが示されていることを念頭において対応する(6)。
 
新型コロナウイルス陽性患者の手術室は専用とし、予想しうる限りの薬剤をあらかじめ手術室に準備することにより、入退室による扉の開閉の頻度を少なくする。その運用の実際についてはシンガポールからの報告が有用である(7)。
 
7.
手術後の対応について
 
新型コロナウイルス感染患者または感染が疑われる患者の術後搬送は手術室外で待機している最小限の人員が行う。搬送に関わる人員のPPEは手術時に使用したものと同じであってはならない。
 
医療従事者は新型コロナウイルスの付着・拡散を防ぐため自宅からの服を脱いで袋に入れておく。
 
手術着は手術室域内で着脱する。
 
患者の処置後は手術室域内でシャワーを浴びることを考慮する。
 
頻繁に手洗いするとともに、社会的距離を確保する。
 
8.
医療従事者の帰宅時の対応について
 
病院は、患者の手術や処置を終えた医療者が自宅に戻れない(帰れない)場合に備え、宿泊施設を準備する。
 
様々な物体の表面から新型コロナウイルスの感染が広がることに注意する。
 
銀行ATM、自動販売機、ガソリンスタンドでの給油、そのほか対人手渡しで商品を購入する際は、手指消毒を行うか使い捨て手袋を使用する。
 
携帯電話はウイルス汚染しやすいため、清潔に保つことに留意する。
 
帰宅時はすぐに服を脱いで洗うことを考慮する。
 
家族間でも身体接触を減らし、手をよく洗う。
 
60%アルコールなどで家の中、特に手がよく触れる場所を掃除する。
 
医師が家族を新型コロナウイルスの感染から守る方法について、米国Weill Cornell Medical CenterのDavid Price医師による解説した動画が掲載されている次のサイトが参考になる。
 
9.
緊急手術について
 
新型コロナウイルス感染が疑われる場合は、最大限その判定結果を待つ。
 
新型コロナウイルス感染が疑われる場合は、腹部CTを撮影する際に胸部CTもあわせて撮影する。
 
陽性確定および疑い例に関しては、緊急手術であっても必ずフルPPE装備で対応する。
 
緊急手術における腹腔鏡手術に関しては、エアロゾル発生に伴う感染の危険性が否定できない現状であり、感染の可能性が極めて低い症例のみを対象とする(8)。
 
非手術治療を選択する可能性を最大限考慮した上で、それが選択できない患者のみに緊急手術を行うようにする。
 
 冒頭でも記載したように、新型コロナウイルス感染症が蔓延を続けている現状では、医療情勢や社会状況は日々刻々と変化する。外科医はこれらの変化に柔軟かつ協調的に対応することが求められる。この困難な状況下にあっても、外科医として、また地域住民の健康を守るリーダーとして、是非力を発揮されんことを願うものである。
 
参考文献
1.
米国 American College of Surgeons HP.https://www.facs.org/
2.
英国 Royal College of Surgeons HP. https://www.rcseng.ac.uk/
3.
米国内視鏡外科学会HP.https://www.sages.org/category/covid-19/
4.
Aminian A, Safari S, Razeghian-Jahromi A, Ghorbani M, Delaney CP. COVID-19 outbreak and surgical practice: unexpected fatality in perioperative period. Ann Surg. 2020 Mar 26. doi: 10.1097/SLA.0000000000003925.
5.
Chow TT, Yang XY. Ventilation performance in operating theatres against airborne infection: review of research activities and practical guidance. J Hosp Infect. 2004;56(2):85-92.
6.
van Doremalen N, Bushmaker T, Morris DH, et al. Aerosol and surface stability of SARS-CoV-2 as compared with SARS-CoV-1. N Engl J Med. 2020 Mar 17. doi: 10.1056/NEJMc2004973.
7.
Ti LK, Ang LS, Foong TW, Ng BSW. What we do when a COVID-19 patient needs an operation: operating room preparation and guidance. Can J Anaesth. 2020 Mar 6. doi: 10.1007/s12630-020-01617-4.
8.
Zheng MH, Boni L, Fingerhut A. Minimally invasive surgery and the novel coronavirus outbreak: lessons learned in China and Italy. Ann Surg. 2020 Mar 26. doi: 10.1097/SLA.0000000000003924.
 
 

投稿日時: 2020.04.10