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歴代理事長挨拶:2013年理事長挨拶

特定非営利活動法人日本胸部外科学会
理事長 坂田 隆造(京都大学医学部附属病院 心臓血管外科)

理事長:坂田 隆造(京都大学医学部附属病院 心臓血管外科)

 田林理事長の任期満了に伴い、第64回日本胸部外科学会学術集会において理事長に選任いただきありがとうございました。伝統ある本学会の理事長を拝命し、光栄であると同時にその任の重さを痛感しております。田林先生は基本理念として、心臓血管外科・呼吸器外科・食道外科の3分野総合学会としてその特徴を充実させ、学会員の期待に応えると共に、日本の医学会を先導する学会を目指すことを掲げられました。そして理念を実現すべく数々の方策を立案されました。これらの方策はすべてにおいて前進または進化し、あるものは実現し、あるものはその途上にあります。私もこの基本理念を踏襲し、実現に向けて邁進したいと決意しております。この理念を言いかえると、1)学会員の期待に応えるような形で、2)日本の医学会を先導する学会を目指して、本学会を充実させる、ということになります。そして本学会の本質を成すものは定期学術集会と学会誌であります。

1)定期学術集会の質の向上
学会の最大事業である定期学術集会の質を高めていくことが揺るぎない第一義の目標となります。定期学術集会の演題採択率はここ数年厳しさを増しており、演題応募者には高いハードルとなっています。しかしその分、発表者は大きな喜びと誇りを持つようになっており、採択論文の質も年々向上しています。これまでの学術集会に対する学会の取り組みが正当であった証であり、定期学術集会の質の向上は今後も最重要の課題であり続けます。
さて、これまで学術集会のありようは学術集会委員会の事項として扱われ、教育プログラムは研究・教育委員会が、Post graduate courseのAATS、EACTS講師は国際委員会が、というように該当委員会がその都度対応していました。しかし本体の学術集会委員会は本学会学術集会の過去2~3年の会長経験者、同学術集会幹事経験者、他の関連学会学術集会の会長経験者などで構成されており、本学会学術集会を経年的連続的な事業としてスムーズに継承させるには有益でありましたが、学術集会のあり方そのものを考えるには不十分であったように思われます。なによりも将来を担う若手の意見が反映されにくく、委員会構成を見直して本来の学術集会委員会の役割に継続的に集中的に打ち込める体制をつくりたいと考えております。

2)エビデンスの発信・学会誌の質の向上
この目標は本学会にとって1)の学術集会の質の向上とともに車の両輪となるものです。
本学会の手術成績は欧米を陵駕するまでに向上したものの、エビデンスの発信力はまだまだ発展途上であります。日本胸部外科学会誌は英文とすることで質向上の第一歩を踏み出しましたが、更なる努力が必要です。日本の胸部外科関係の実力を示すことが目的なら、本学会構成員がそれぞれの立場で諸雑誌にエビデンスを発信し続けることも有益ですが、本学会にとって重要なことはそれらが学会誌を通して発信されるようになることです。学術集会での発表が構成員に喜びと誇りをもって評価されるのと同様に、論文の学会誌掲載がその質の証明であると認識されるようにすることが本学会の地位向上に必須の事業です。このことはまた欧米の関係学会との関係を対等なものにする本質的な方策でもあります。
会誌編集委員会では三好前委員長のもと精力的にこの問題に取り組み、進むべき道は明示されました。学会誌の質の向上を最大の目標として前進したいと思います。

3)学術調査
本学会は構成3分野の手術内容と症例数に関する学術調査を1986年より開始して既に25年のデータ収集を積み重ねています。この学術調査の示すところは、3分野の手術成績の着実な向上であり、最近の成績は欧米を陵駕するものとなっています。本学会の診療技術向上を目ざした絶えざる努力の賜物であり、我々は誇りを持って世に公表していくべきでしょう。このことは正当な評価に立脚した構成員の地位向上に資することにもつながります。学術調査のもう一つの成果は診療のクオリティコントロールの役目も果たしてきたことです。日本全国で行われる胸部外科手術のほぼ全例を成績も含めて本学会が把握している事実は驚くべき成果であり、それは診療の逸脱の早期発見・抑止力となり、示される手術成績は質の向上に大きな寄与をしています。
田林前理事長の最重要方針の一つであった「学術調査の有用的活用」は胸部外科3分野の手術症例数と成績の公開として結実しました。本学会がプロフェッショナリズムを掲げる学会として公共といかに関わるかの議論のなかでどのような公表のし方がより望ましいのかも考えていきたいと考えます。また学術調査結果に基づいた医療の質のコントロールも重要な課題です。

4)医療安全・倫理
胸部外科学と医療技術の発展の美名のもとに、医療安全・倫理が置きざりにされてはなりません。医学は学問としての、あるいは技術としての自律的発展に身を委せて走り続けるものでなく、成果が国民の健康と福祉に寄与するかどうかを不断に検証すべき宿命をおっています。検証のためには、進歩と称される変化に足踏みする忍耐と自らを省みる勇気が必要です。医療事故を防ぎ、事故には誠実に対応し、原因を真摯に探し求めて再発防止に努めることの重要さは、最近の本学会医療安全講習会でも常に取り上げられていますが、このことは本学会員が医療に内包される社会的責務-忍耐と勇気-を心底認識する第一歩を提示するものであり、重要な施策として今後も継続します。

5)専門医制度
本学会は「胸部外科専門医」制度を有しませんが、心臓血管外科専門医、呼吸器外科専門医、食道外科専門医の3つの専門医制度がかかわっています。この関与の度合い・重要性は一つに本学会の質に依存しており、それは"本学会の関わる専門医制度"の信頼度につながるものであります。
これらの専門医制度は、それぞれの関連学会との協同で設立された心臓血管外科専門医認定機構、呼吸器外科専門医合同委員会、日本食道学会で構築・整備されて日本で最も充実した専門医制度になりつつあります。今後は専門医の質、専門医を目指す修練医の教育の質の評価が課題と考えます。

6)胸部外科医の処遇改善
処遇改善委員会で胸部外科医の処遇実態調査が行なわれ、政策検討委員会でも専門医に対するドクターフィーに関しての提言を行なってきました。しかし具体的成果を得るにはまだ道半ばで、今後も継続的に努力していく所存です。胸部外科医の処遇改善の一環としても位置付けられていた、チーム医療推進委員会の「特定看護師」創設へ向けての活動が実を結びそうです。「看護師特定能力認証制度」の2013年度開始を目指し、本年の通常国会に厚労省より法案が提出される見込みです。この法案が実現するとチーム医療の実質が充実して医療の質が向上し、胸部外科医は本来の業務に時間を割くことができると期待されます。

 これからの理事長としての任期2年間、事業の継続と改革を合言葉に各委員会の知恵を借りながら本学会の発展に尽したいと考えております。会員の先生がたのご意見、ご支援をいただき皆様に信頼され満足いただけるような学会にすることを目指し、ご挨拶と所信表明といたします。