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理事長挨拶

理事長就任挨拶

特定非営利活動法人日本胸部外科学会
理事長 大北 裕(神戸大学大学院医学系研究科 心臓血管外科)

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 新年あけましてお目出度うございます。昨年10月に日本胸部外科学会理事長を拝命いたしました。本会について、現在の私の抱負を述べさせて頂きます。
 私は1980年に本会に入会させて頂きました。それ以来、本学術集会で発表させて頂くことは、自分の日常の臨床経験のなかでの大きな目標であり、実現したときの感激は強烈でありました。爾来、35年経過いたしましたが、本会会員であるということは、私の名誉であり、矜持でもあります。2004年から評議員として、2010年からは田林元理事長のもと、その後、坂田前理事長のもと、理事として、本会に参画させていただきました。この間、施設集約化委員会委員長、会誌編集委員会委員長、学術委員会委員、学術集会委員会委員、国際委員会委員、倫理・安全管理委員会委員などを務めさせていただき、多くのことを学ばせて頂きました。2014年には富永前会長のもと副会長、2015年には会長としてその職務に励みました。
 本会は1948年に創設され、本邦の外科系学会のなかでも最も旧い歴史を有します。当初は200名前後の参加者で肺外科を中心に討論されてきましたが、1950年代後半から始まる本邦心臓外科の揺籃期には、本会が中心となって、その発展を担って参りました。また、呼吸器外科や食道外科も当初から本会が各分野の発展を後押ししてきたことは紛れもない事実であります。1970年代になり日本心臓血管外科学会、日本血管外科学会、日本食道学会、日本呼吸器外科学会などが発足し、各分野でそれぞれに素晴らしい成果をお挙げになっています。しかしながら、胸部領域の3分野を統合する学会としての本会の重要性は些かも減ずることは無く、本会は依然として本邦胸部外科領域の本流として、その重責を果たして行かねばなりません。
 多くの先達の努力の結果、獲得されてきた本会の成果は賞賛すべきものでありますが、それらに付け加える事項、もしくは、幾つかの克服すべき課題を私なりに考えていました。
 まず、本会機関誌であるGTCSの充実であります。GTCSは本邦では数少ない胸部外科領域での英文機関誌であり、旧JJATSから数えると60年以上の歴史を有します。私なども本誌の赤や黄色の表紙目次に自著が掲載されるのを目標に大変努力をいたしました。1998年に英文化されて以来、インパクトファクターの獲得が目標でありました。私が2012年三好前編集長から受け継いでその目標に懸命に努力して参りましたが、会員の皆様の多大なご協力の結果、2014年度の本誌仮インパクトファクターが0.70を超え、2016年には1.0に達する見込みです。これを受けて、再度インパクトファクター獲得に挑戦しようと考えています。インパクトファクター獲得だけが機関誌の目標ではありませんが、国際誌として今後もGTCSの内容の充実に向けて努力してゆく所存です。
 次の目標は本会の真の国際化であろうかと思われます。本邦の胸部外科領域の臨床成績は学術委員会によるAnnual reportを見ても世界水準どころかそれを凌駕するような素晴らしいものです。しかし、これらは海外からは正当に評価されているでしょうか?毎年、本学術集会には沢山の外国人が招待され、講演されていますが、そこでの我々との討論は十分になされているでしょうか?反対に日本人が海外学術集会へ招待され講演・討論する機会は増えたと言っても未だ多くありません。本邦から欧米への留学生は枚挙にいとまがありませんが、反対に、海外から本邦へ臨床留学する若人は少数です。米国のAATS、STS、欧州のEACTS、ESTSなどは胸部外科3領域を統合した学術団体であります。日本胸部外科学会はそれらのカウンターパートとして機能しうる本邦で唯一の団体であります。国際委員会を中心にして、この課題に今後一層、励まなければならないと思います。また、アジアのASCVTSとも協力して、アジア近隣諸国からの本学術集会参加も支援したいと考えています。
 次の課題は学術集会運営であろうかと思います。会員が毎年秋に3000余名参集する学術集会は本会最大のイベントであります。しかしながら、現在、この運営は、殆ど会長に任されている状況で、資金の獲得、プログラム編成、会場の設定など、会長への負担は大きなものとなっています。本会関連学会、すなわち、日本心臓血管外科学会、日本血管外科学会、日本呼吸器外科学会、日本食道学会とのプログラムの重複を避けるには多くの困難が伴います。将来は日本外科学会・日本循環器学会のように、学術集会委員会を充実させ、本委員会が中心になってプログラムを策定するような方向が望ましいと考えています。資金獲得には本学会に新たな委員会を設けて、関連企業、コンベンションサービスなどと直接交渉すべきと考えています。
 もう一つの提案は、若い次代を担う本会員への支援策であります。本邦外科全体の退潮傾向は残念なことですが、胸部外科を司る我々の後進を育成することは、我々の大きな責務であります。現在までに本会では様々な方策がとられてきましたが、より一層の拡充が必要かと思います。幸いにして、本会は財政的には多少の余裕がありますので、国内外への留学支援、企業と連携したtravelling fellowshipなどを、考えています。日本胸部外科学会には各地方会が整備され、本会の大きな強みとなっていますが、そこからも将来を嘱望される若手外科医を見い出し、支援してゆきたいと思います。また、本会の女性会員への支援も忘れてはいけない重要な課題であります。現在、本会の女性正会員は40余名を数えますが、評議員はわずか1名で、全体の正会員数3000名からすると奇妙なアンバランスを呈しています。医学部学生に女性の占める割合は30─50%に達する昨今、女性胸部外科医の本会へのより一層のリクルートは、胸部外科医の待遇改善、チーム医療推進の戦略策定とともに平行して推し進めてゆかねばならないと考えています。
 また、毎年学術委員会が発行しているAnnual reportは1984年から本邦の胸部外科領域の手術を大部分網羅し会員、社会にとっても貴重な財産となっています。また、近年、JCVSD、NCDなどのデータベースが充実し、大規模データのより踏み込んだ解析が可能になってきました。一方、webの急速な発達に伴い医療機関から発信される情報が巷間には溢れています。しかしながら個々のホームページ、ツイッターなどから発信される情報は、いわば野放し状態であります。また、ランキング本など、マスメディアからの恣意的な情報発信は国民をして誤った判断に至らせる危険性を孕んでいます。これまで、本会が有する膨大な情報の公開については、現在まで様々な議論がなされてきましたが、職能団体の社会的責任を履行する、また、我々の自律性を担保する意味でも、公正な情報公開について、今一度議論の必要があると考えています。
 以上、私が常々、日本胸部外科学会の発展について考えている事を述べてきました。本会は胸部外科という単独診療科たり得ない点、単独で専門医を選定出来ない弱点は有しますが、その反面、他に類を見ない三分野統合の学術団体として、高踏的なアカデミアを目指す事の出来る利点があります。今後、この目標に向かって精進・邁進したいと考えています。